2019年11月08日、映画界には家族の絆やタブーに切り込む意欲作が揃い踏みしました。まず注目したいのが白石和彌監督の最新作『ひとよ』です。父親の暴力から子供たちを守るために殺人という道を選んだ母親が、15年の時を経て再会を果たす物語となっています。母親役を演じる田中裕子さんの圧倒的な存在感は、SNSでも「画面越しの圧がすごい」「母親の覚悟に涙が止まらない」と大きな反響を呼んでいる最中です。
重厚なテーマを扱いながらも、物語の端々に日常の可笑しみが散りばめられている点がこの作品の妙味でしょう。私個人としては、究極の愛がもたらした悲劇と、その後の再生を描く手法に、白石監督の新たな境地を感じずにはいられません。罪を背負った家族がどのようにして再び「家族」に戻っていくのか、その過程は観客一人ひとりの倫理観に深く問いかけてくることでしょう。
タブーを視覚化する『生理ちゃん』と異色のケニア映画
同日公開の『生理ちゃん』は、多くの女性が抱える「生理」というデリケートな問題を擬人化した異色作です。主演の二階堂ふみさんが、雑誌編集部で働く女性の葛藤をコミカルに、かつ情緒豊かに演じています。本作の魅力は、これまで隠すべきものとされてきた身体の現象を、キャラクターとして「視覚化」することで、誰もが共有できる物語に昇華させた点にあります。
視覚化とは、目に見えない概念や感情を、形あるものとして表現する手法のことです。品田俊介監督が描く泣き笑いのエピソードは、女性だけでなく男性にとっても他者への想像力を養う一助となるはずです。一方で、ナイロビを舞台にしたケニア映画『ラフィキ:ふたりの夢』は、同性愛が違法とされるお国柄ゆえに国内上映禁止という厳しい現実を背負っています。
対立する政治家の娘同士が恋に落ちるという、瑞々しくも危うい青春のエネルギーは、ケニアという枠を超えて普遍的な感動を呼ぶでしょう。自由を求める彼女たちの姿は、現代社会における多様性の重要性を改めて私たちに突きつけます。社会的な制圧に負けず、自らのアイデンティティを貫こうとする瑞々しい描写には、強いメッセージ性が込められていると感じます。
記憶を呼び覚ます食卓とジャズ界の巨星の最期
食と家族の記憶を丁寧に編み上げたのが『最初の晩餐』です。亡き父の通夜ぶるまいで出される手料理の数々が、再婚家庭で育った子供たちのわだかまりを解きほぐしていきます。常盤司郎監督の繊細な演出は、言葉にできない家族の距離感を見事に表現しており、食事が単なる栄養摂取ではなく、思い出を共有するための「鍵」であることを思い出させてくれるでしょう。
最後に紹介するのは、伝説のジャズトランペッターの謎に迫る『マイ・フーリッシュ・ハート』です。1988年、アムステルダムで窓から転落死したチェット・ベイカー。彼の孤独な晩年を、事件を追う刑事の視点から紐解いていきます。映画の至る所に散りばめられたジャズの音色が、チェットの壊れやすくも美しい魂を象徴しているかのようです。
2019年11月08日現在、これらの作品はそれぞれ異なるベクトルで私たちの心に訴えかけてきます。家族、身体、愛、そして芸術。映画という窓を通じて、普段は見過ごしてしまいがちな大切な感情や社会の歪みに触れることができる。それこそが映画館に足を運ぶ醍醐味ではないでしょうか。どの作品も、今の時代だからこそ鑑賞する価値のある傑作揃いです。
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