2019年11月19日、日経フォーラム世界経営者会議にて、JR九州の唐池恒二会長が不透明な時代における成長の鍵を語りました。現在、日本を訪れる外国人観光客は右肩上がりで増え続けていますが、その内実には大きな変化が訪れています。これまでの主流だった団体旅行は影を潜め、家族や友人といった少人数の個人旅行へとシフトしているのです。
さらに注目すべきは、旅の目的が「モノ」から「コト」へと移り変わっている点でしょう。かつての定番だった爆買いや温泉巡りだけでは、今の旅行者は満足してくれません。彼らが真に求めているのは、その土地ならではの歴史や伝統に深く浸る「体験型観光」なのです。こうした新しいニーズを掴むためには、地域に眠る固有の魅力を徹底的に磨き上げることが求められます。
宮崎・飫肥に学ぶ「古くなるほど価値が出る」逆転の発想
唐池会長は、地域再生の優れた手本として宮崎県日南市の飫肥(おび)地区を挙げました。この城下町では、あえて電柱を地中に埋め、住宅を木造に整えることで「訪れるたびに町が古くなる」という、歴史への敬意を感じさせる景観づくりを実践しています。こうした徹底したこだわりが、本物を求める外国人観光客の心を強く惹きつけて離さないのでしょう。
ここで鍵となるのは、住民たちが「自分たちの手で町を守り抜く」という強い誇りを持っていることです。観光客の満足度、住民の幸福感、そして地域経済の活性化という三要素が調和する「三方良し」の精神がそこには息づいています。近江商人の教えとして知られるこの概念こそが、持続可能な観光地経営において最も重要な視点であると、私は確信しています。
失われゆく景観と、私たちが守るべき日本の矜持
翻って首都・東京の現状に目を向けると、唐池会長は強い危機感を露わにしました。歴史ある神社仏閣が取り壊され、効率重視のマンションへと姿を変えていく現状は、日本のアイデンティティを自ら破壊しているようにも映ります。一度失われた文化的景観を取り戻すことは容易ではありませんが、今こそ私たちは「日本固有の価値」を再定義すべきではないでしょうか。
SNS上では、この唐池会長の提言に対し「古いものを壊して新しいビルを建てるだけの開発にはもう飽きた」「不便さの中にこそ贅沢がある」といった共感の声が相次いでいます。D&S列車、つまり「デザインと物語」を軸とした観光列車で数々の成功を収めてきた会長の言葉には、目先の利益に惑わされない本質的な説得力が宿っています。
不確実な時代だからこそ、私たちは他国の真似ではない、日本独自の文化という「最強の武器」を磨く必要があります。効率化の波に抗い、その土地にしかない物語を丁寧に紡いでいく姿勢が、世界から選ばれる日本を創るはずです。未来の観光立国としての形は、古い街並みの中にこそ、ひっそりと、しかし力強く隠されているのかもしれません。
コメント