情熱の国スペインが、かつてない政治的荒波に飲み込まれています。2019年11月10日、わずか4年間で4回目となる異例の総選挙が投開票されました。ペドロ・サンチェス暫定首相は、議会の過半数を確保して政権基盤を固めようと「再選挙」という大きな賭けに出ましたが、結果は皮肉にもさらなる混迷を招く形となりました。SNS上では「何度選挙をすれば気が済むのか」といった国民の疲弊した声や、急伸する勢力への驚きが飛び交い、国中が騒然としています。
選挙の結果、サンチェス氏率いる中道左派の社会労働党は第1党を維持したものの、前回よりも議席を減らすという誤算に見舞われました。一方で世界を驚かせたのは、極右政党「ポックス(VOX)」の猛追です。彼らは24議席から52議席へと倍増させ、下院で第3党へと躍り出ました。これは1975年に独裁体制が終焉して以来、右派勢力がこれほどの影響力を持つのは初めての事態であり、リベラル派の間では「民主主義の危機」を懸念する声が急速に広がっています。
カタルーニャ独立問題が火をつけたナショナリズムの再燃
なぜ、これほどまでに極端な勢力が支持を伸ばしたのでしょうか。その背景には、泥沼化するカタルーニャ州の分離独立問題があります。2019年10月14日、スペイン最高裁が独立住民投票を強行した州政府元幹部らに有罪判決を下したことで、バルセロナを中心とした抗議デモが激化しました。この混乱を目の当たりにした保守層が、強いスペインの復活を掲げる極右勢力へと流れたのです。分離独立派と極右という、水と油のような勢力が同時に議席を伸ばす二極化現象が起きています。
出口の見えない袋小路に追い込まれたサンチェス首相は、驚くべきスピードで次の一手を打ちました。選挙からわずか2日後の2019年11月12日、かつて激しく対立し「連立はありえない」とまで突き放した急進左派「ポデモス」のパブロ・イグレシアス党首と、連立政権樹立に向けた基本合意を交わしたのです。スペインが民主化して以降、初めてとなる「連立政権」の誕生へ舵を切りましたが、この急転直下の握手には、各界から「生き残りのための野合ではないか」と厳しい視線が注がれています。
経済界とEUが抱く「バラマキ政策」への強い警戒感
今回の連立合意に対し、実業界や欧州連合(EU)は不安を隠せません。最大の懸念は、ポデモスが掲げる「反緊縮」の姿勢です。彼らはEUが定める財政規律、つまり「財政赤字をGDP比3%以内に抑える」といったルールに反対し、公的支出の拡大を求めています。スペイン経済は2019年の成長率予測が1.9%に引き下げられ、失業率も14%前後と依然として深刻です。ここでポピュリズム的な財政出動が行われれば、国の信用が失墜しかねないという恐怖が市場を支配しています。
私個人の見解としては、サンチェス氏の決断は「理想なき延命」に見えてなりません。政策の共通点よりも、お互いの議席維持を優先した連立は、足並みが乱れるのは時間の問題でしょう。特に分離独立派の協力がなければ政権運営が成り立たない現状では、国家の根幹を揺るがす要求を突きつけられるリスクが常に付きまといます。妥協を知らないアイデンティティー政治の台頭は、スペインのみならず、現代の民主主義が共通して抱える重い病理であると感じざるを得ません。
二大政党制が崩壊し、対話よりも対立が強調される今のスペインに、安定した未来は描けるのでしょうか。将来の繁栄のためには、左右の極端な主張を排し、中道的な立場で国をまとめるリーダーシップが不可欠です。サンチェス氏が入り込んだ「政治の迷宮」から抜け出す道は、まだ見つかっていません。2019年11月26日現在の状況を見る限り、この混乱は欧州全体を揺るがす長期的な火種となる可能性が高いと言えるでしょう。
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