生後わずか1カ月の愛娘を揺さぶって死亡させたとして、傷害致死罪に問われていた父親の中馬隼人被告に対し、司法が下した決断は「無罪」でした。東京地裁立川支部で2020年2月7日に開かれた裁判員裁判にて、竹下雄裁判長は検察側の求刑懲役8年を退け、揺さぶりによる犯行と断定するには無理があるとの判断を示したのです。この判決は、乳幼児の頭部傷害をめぐる裁判の難しさを改めて浮き彫りにしました。
事件が発生したのは2017年1月13日の午後11時すぎのことです。東京都町田市の自宅で長女が急性硬膜下血腫などの重傷を負い、同年3月22日に入院先の病院で肺炎のため息を引き取りました。検察側は「頭部に振り子のような強い力が加わった」として父親の暴行を主張しましたが、弁護側は「呼吸停止の明確な理由は分かっていない」と真っ向から反論し、裁判の行方に大きな注目が集まっていたのです。
今回の裁判で最大の焦点となったのが、「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」という専門概念の適用でした。これは、赤ちゃんが激しく揺さぶられた際、脳の表面を覆う膜と脳との間で出血が起きる「硬膜下血腫」や、眼底出血、脳浮腫という3つの症状がみられる病態を指します。医学的な見地から虐待の有力な証拠とされるケースが多いものの、今回の判決では、その前提に慎重な姿勢が示されることになりました。
判決理由の中で竹下裁判長は、長女にみられた硬膜下血腫や肋骨の骨折について、被告が異変に気付いた後に抱えて動かした際や、必死に行った心臓マッサージの過程で生じた可能性を指摘しています。つまり、検察側が主張する暴行ではなく、「別の原因によって症状が出たと医学的に説明できる」と結論付けたのです。救命のための正当な行為が、虐待の証拠と誤認されるリスクに踏み込んだ形と言えます。
この劇的な無罪判決に対して、SNS上では瞬く間に大きな反響が巻き起こりました。ネット上では「もし冤罪(えんざい)だとしたら、最愛の娘を亡くした上に犯人扱いされた父親の苦しみは計り知れない」と同情する声が相次いでいます。その一方で、「本当に虐待がなかったのか、真相が闇に葬られてしまうのではないか」と、幼い命の尊厳を守る視点から不安を吐露する意見も根強く、議論が白熱している状況です。
編集部の視点として、今回の判決は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が遵守された結果だと評価できます。しかし、児童虐待の防止という社会的要請と、冤罪の防止という人権擁護のバランスをどう取るべきか、私たちは非常に重い課題を突き付けられました。客観的な医学的エビデンスを慎重に見極める目を持つと同時に、悲劇的な事故を防ぐための社会的なセーフティネットの構築が急務ではないでしょうか。
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