東京や大阪といった大都市の喧騒から離れ、未知なる日本を求める外国人観光客の視線が今、東北地方へと注がれています。インバウンド(訪日外国人客)市場において、東北6県のシェアは合計でもわずか1.0%程度に留まっており、決して大きな規模とは言えません。しかし、この数字の小ささは、裏を返せば手付かずの魅力が眠る「将来の伸びしろ」が極めて大きいことを示唆しているのです。
特に注目を集めているのが、山形県鶴岡市に位置する出羽三山での「スピリチュアル体験」です。2019年08月10日現在、同市の宿坊街では、伝統的な装束に身を包んだ欧米からの旅行者が、急峻な石段を一段ずつ踏みしめる姿が日常的に見られるようになりました。古来より続く日本の精神文化に触れる旅が、知的好奇心の強い層を惹きつけてやみません。
「うけたもー」の響きに感動!フランス人一家が見た本物の日本
山形県の羽黒山では、フランスから訪れたピエール・ボターさん一家が、山伏(やまぶし)の先導により神秘的な修行体験に挑戦しました。山伏とは、山にこもって厳しい修行を行い、悟りを開くことを目的とする修験道の歩き手のことです。案内役を務める早坂一広さんは、日本人客が減少する一方で、インターネット予約を駆使する外国人客が平日の宿泊者の大半を占めることもあると、その変化に驚きを隠せません。
一行は国宝の五重塔を仰ぎ見ながら、2446段にも及ぶ過酷な石段を2時間以上かけて踏破しました。山頂の神社で玉串を捧げ、日本の伝統的な参拝様式を経験したピエールさんは、汗を拭いながら「都会では味わえないユニークな体験だ」と称賛しています。8歳の息子、アレクサンドル君も「不思議な場所で面白かった」と笑顔を見せ、家族全員にとって忘れられない旅となったようです。
宿泊先となる「宿坊(しゅくぼう)」は、もともと僧侶や参拝者のための宿泊施設であり、提供される料理は肉や魚を使わない「精進料理」が基本です。パンやコーヒーを求める声もありましたが、それ以上に「ここでしかできない貴重な体験」としての価値が勝っています。こうした不便ささえも文化として楽しむ姿勢が、今のインバウンド客には共通しているのでしょう。
高単価でも満足度抜群!「精神文化」を売る攻めの戦略
山形県が強力に推進しているのが「精神文化ツーリズム」です。これまでの低価格な団体ツアーとは一線を画し、山伏や通訳が同行するフルサービスの参拝ツアーは、4人参加で1人3万5000円からという強気な価格設定になっています。しかし、博報堂出身で現地に移住した加藤丈晴社長は、この高単価なプログラムに自信を持っています。自身も山伏修行を積んだ経験から、異文化体験の価値を正しく評価しているからです。
SNS上でも「これこそがリアルなジャパンだ」「静寂の中で自分を見つめ直せる」といった投稿が相次いでおり、東北のポテンシャルを裏付けています。今後は弓道や居合道といった武道体験も商品化される予定であり、滞在期間の延長と消費額の向上が期待されています。単なる物見遊山の観光から、自己を高める体験へと、旅行の質が大きくシフトしているのを感じます。
意外なスポットが人気に?青森で見つけたインバウンドの意外な法則
一方、青森県では興味深い現象が起きています。特別な観光地がないと思われていた「おいらせ町」の訪日客数が、2018年には2年前の4.4倍に急増しました。その中心にあるのは、なんと大型ショッピングモールの「イオンモール下田」です。本来は地域住民の生活拠点ですが、2017年の中国・天津便の就航や、青森港への大型クルーズ船の寄港が追い風となり、休憩や買い物の重要拠点としてツアーに組み込まれました。
八甲田や奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)といった大自然を満喫した後に、現代的な日本のショッピングを楽しむ。この動線の構築が、地方都市におけるインバウンド誘致の鍵となっています。伝統文化を売る山形と、利便性を武器にする青森。アプローチは異なりますが、どちらも地域の特性を活かした見事な戦略です。東北が「日本の真髄を知るための聖地」として定着する日は、そう遠くないでしょう。
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