日本の伝統芸能界に多大な足跡を残した演劇評論家の堂本正樹(どうもと・まさき、本名・正男)さんが、2019年09月23日に肺炎のため、85歳でこの世を去られました。葬儀と告別式については、故人の意志を尊重し、長男の彩樹(あやき)氏を喪主として近親者のみでしめやかに執り行われたことが報じられています。長年にわたり能楽や歌舞伎の神髄を独自の視点で切り拓いてきた巨星の入滅に、演劇界には静かな衝撃が広がっています。
堂本さんは、能を大成させた「世阿弥」の研究において、歴史的な事実の羅列に留まらない鋭い洞察を提示し続けました。著書『古典劇との対決』では、数百年の時を経ても色褪せない伝統芸能が持つ生命力と、現代を生きる私たちがどう向き合うべきかを厳しくも温かい筆致で綴っています。ここでいう「古典劇」とは、単に古いお芝居を指すのではなく、時代を超えて普遍的な人間の業を表現し続ける芸術の結晶を意味しているのでしょう。
SNS上では、彼の評論を通じて古典芸能の面白さに目覚めたファンから、「堂本先生の言葉は、難解に思える能の世界を鮮やかに彩ってくれた」「冷徹なまでに真理を突く批評スタイルが大好きだった」といった惜別の声が相次いでいます。評論家という立場でありながら、作品の背後にある制作者の情熱までを代弁するようなその語り口は、専門家だけでなく多くの一般読者の心をも掴んでいたことが伺えます。
編集者としての私見を述べさせていただけるならば、堂本正樹という人物は、過去と現代を繋ぐ「言葉の架け橋」だったと感じてやみません。伝統芸能を「守るべき遺産」として神格化するのではなく、常に現代の感性で「対決」し、新しい価値を見出し続けるその姿勢は、変化の激しい現代社会において私たちが忘れてはならないクリエイティビティの根幹ではないでしょうか。彼が遺した膨大な著作は、今後も古典を学ぶ人々にとっての指針となるはずです。
肺炎という病によって2019年09月23日にその生涯を閉じられたことは非常に残念ですが、彼が定義した「花」の美しさは、これからも舞台の上で咲き続けることでしょう。日本の文化史における貴重な語り部を失った喪失感は計り知れませんが、私たちができる最高の供養は、彼が愛した能や歌舞伎の劇場に足を運び、その奥深い世界を自分自身の目で見つめ直すことなのかもしれません。
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