2019年11月29日、北海道の鈴木直道知事は道議会の場において、カジノを含む統合型リゾート、いわゆるIR(Integrated Resort)の誘致申請を今回は見送る方針を明らかにしました。これまで全国で誘致に意欲を見せていた8つの地域の中で、正式に見送りを表明したのは北海道が初めてとなります。有力な候補地と目されていた北の大地の撤退は、今後の日本の観光戦略に大きな波紋を広げることになるでしょう。
鈴木知事が今回の決断に至った最大の理由は、候補地の自然環境に対する懸念にあります。IRの建設予定地には希少な動植物が生息している可能性が極めて高く、国の定める期限までに適切な「環境アセスメント(環境影響評価)」を完了させることは物理的に困難であると判断されました。環境アセスメントとは、大規模な開発が自然に与える影響を事前に調査・予測し、守るべき命や環境を保護するための極めて重要な手続きを指します。
ネット上ではこのニュースに対し、「自然を守る英断だ」という称賛の声が上がる一方で、「莫大な経済効果を逃すのはもったいない」といった落胆の意見も飛び交い、SNSは騒然となりました。特に候補地として期待が高まっていた苫小牧市では、新千歳空港からのアクセスの良さを武器に、最大で3800億円規模の投資が見込まれていただけに、地元関係者の間には衝撃と深い悲しみが広がっています。
経済界の期待と政治的ハードルの狭間で
2019年10月から11月にかけて、北海道の経済団体は誘致を強く求める「緊急共同宣言」を提出するなど、官民一体となった猛プッシュを続けてきました。海外の有力なIR事業者も参入に意欲を見せており、ビジネスの観点からは絶好のチャンスに見えたはずです。しかし、政治の現場では最大会派の意見がまとまらず、道民の間でもギャンブル依存症への不安や治安悪化を懸念する声が根強く残っていたのが実情です。
私は、今回の鈴木知事の判断は非常に誠実なものだと評価しています。目先の経済利益だけでなく、北海道の宝である「豊かな自然」を天秤にかけ、準備不足のまま突き進むリスクを回避したからです。政治家として、反対派の意見や環境リスクに目をつむらず、2019年11月29日というタイミングで明確な答えを出したことは、将来的な信頼関係の構築に繋がるはずではないでしょうか。
国が定めた2021年1月から7月の申請期間に向けて、現在は大阪府・市や横浜市、長崎県などが激しい火花を散らしています。日本国内で認められる設置枠はわずか3箇所という狭き門です。北海道が戦線から離脱したことで、残る自治体の誘致合戦はさらに熱を帯びていくことでしょう。北の大地が選んだ「環境との共生」という道が、今後の地方創生の新しいモデルケースになることを期待せずにはいられません。
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