カトリック教徒の精神的支柱であるローマ教皇フランシスコが、2019年11月20日から26日にかけて、タイと日本を訪問します。教皇がアジアの地を踏むのは就任以来4回目となり、世界中から熱い視線が注がれています。特に2019年11月24日には、被爆地である長崎と広島を訪れる予定です。
今回の歴訪で最も注目されるのは、核拡散への懸念が高まる国際社会に対し、教皇がどのような平和のメッセージを発信するかという点でしょう。SNS上でも「歴史的な瞬間に立ち会える」「平和への祈りが届いてほしい」といった期待の声が溢れており、宗教の枠を超えた関心事となっていることが伺えます。
アジア市場への布教拡大と中国との複雑な距離感
教皇の狙いは平和への祈りだけではありません。実は、キリスト教離れが進む欧米に代わり、成長著しいアジアでの信者拡大を重要視しているのです。バチカンの統計によれば、アジアの信者数は増加傾向にありますが、普及率はまだ3%程度に留まっており、巨大な開拓余地を残しているといえます。
ここで鍵となるのが中国との関係です。バチカンは中国政府と司教の任命権を巡る暫定合意を結び、融和路線を歩んでいます。「司教(しきょう)」とは、特定の地域を統括する聖職者の上位職のことです。かつてはこの任命権を巡って対立がありましたが、布教のために歩み寄りを見せているのが現状です。
しかし、この接近には懸念も伴います。2019年6月以降、香港では民主化を求める激しいデモが続いていますが、中国との関係を重視する教皇は沈黙を守っています。対話を通じて信者の安全を守るという実利を取るか、人権という普遍的な価値を説くか、教皇は極めて難しい舵取りを迫られているのでしょう。
国際政治に投じる一石と核なき世界への挑戦
教皇の訪日は、国際政治のパワーバランスにも影響を及ぼす可能性があります。2019年8月には中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効し、世界の核軍縮は停滞しています。こうした中での核廃絶の訴えは、2020年11月に大統領選を控えるアメリカのトランプ政権に対しても無言の圧力をかけるはずです。
私の考えでは、教皇の訪日は単なる宗教行事ではなく、分断が進む現代社会に対する強力な「ソフトパワー」の行使です。政治家が利害で動く中、道徳的な権威を持つ教皇が広島・長崎で語る言葉は、核兵器の非人道性を改めて世界に突きつける貴重な機会になるでしょう。
一方で、北朝鮮の金正恩委員長が教皇の訪朝を歓迎する意向を示すなど、朝鮮半島の情勢改善に向けた期待も高まっています。宗教が政治的な壁を溶かすきっかけになるのか、2019年11月20日から始まるこの1週間の動きから、一瞬たりとも目が離せません。
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