2019年12月3日から4日にかけて、日本記者クラブの取材団の一員として、東京電力の福島第一・第二原子力発電所の最前線に足を踏み入れました。かつての緊迫した状況を知る者として、現在の1号機から4号機周辺の変わりようには驚かされます。放射線量は事故直後に比べて大幅に低減しており、徹底した環境整備が進んでいました。
海側に散乱していた瓦礫はきれいに取り除かれ、土が露出していた場所にはモルタルが吹き付けられています。さらに厚さ約5センチメートルの鉄板で地面を覆うなどの遮蔽対策が功を奏したのでしょう。2号機からわずか100メートルほどの高台で廃炉作業を見守った際も、かつての重装備な防護服は必要ありませんでした。
当日の装いは薄手のベストを羽織り、胸ポケットに線量計を忍ばせるという、一般的な工場見学と大差ない軽装です。唯一の特殊なルールといえば、汚染防止のために靴下を二重に履くことくらいでしょうか。現場の安全性は着実に向上しており、廃炉に向けた歩みが着実に進んでいることを肌で感じることができました。
世界が注視するALPS処理水とトリチウムの正体
現在、現場で最も大きな関心事となっているのが、日々発生する汚染水とその浄化後の「処理水」の取り扱いです。多くの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)を通しても、どうしても除去できないのが「トリチウム」という物質です。これは水素の仲間で、自然界にも広く存在する放射性物質であることをご存知でしょうか。
トリチウムは世界中の原発でも生成されており、基準値以下に希釈して海洋放出することは国際的なルールで認められています。しかし、この科学的な事実を巡って、2019年9月のIAEA総会では韓国が「世界中に不安を広げている」と猛烈な批判を展開しました。これに呼応するように、最近では韓国メディアによる取材が急増しているそうです。
東電の木元崇宏氏は、一部の海外報道が「あらかじめ決めた結論に沿ったコメントだけを抜き出している」と苦い表情で語っていました。ネット上では「正確な情報を伝えてほしい」という声と「風評被害が怖い」という不安が入り混じっています。科学的な根拠に基づく誠実な説明こそが、今の福島には何よりも必要です。
電力業界の信頼を揺るがす関西電力の不祥事
福島の現場が地道に信頼を積み重ねようと奮闘している一方で、業界全体に冷や水を浴びせたのが関西電力幹部による金品受領問題です。この重大な不祥事は、国内の電力業界に対する世間の信用を根底から壊してしまいました。福島がどれほど誠実さを尽くしても、こうした身勝手な不祥事が人々の不信感を煽ってしまいます。
SNS上でも「福島で頑張っている人が報われない」といった怒りの投稿が目立ちます。処理水の海洋放出という極めてデリケートな決断を控える今、業界トップ層のモラル欠如は決して許されるものではありません。原子力という巨大な力を扱う組織には、科学的な正しさ以上に、社会から信頼される清廉さが求められるはずです。
私は今回の視察を通じ、風評被害を食い止める唯一の道は、地道な情報公開を積み重ねることだと再確認しました。しかし、一部の不祥事がその努力を台無しにする現状には、強い憤りを禁じ得ません。日本全体が原子力の未来を議論するためには、まず電力会社全体が自らを律し、透明性を証明することが大前提となるでしょう。
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