2019年07月10日、日本の科学界を代表する機関である日本学術会議は、高校の生物教科書における遺伝用語の表現を見直すよう求める報告書を公表しました。これまで長らく親しまれてきた「優性・劣性」という言葉を、今後は「顕性(けんせい)・潜性(せんせい)」へと改めるべきだという画期的な提言です。このニュースは教育関係者のみならず、SNS上でも「ようやく誤解が解ける」「言葉のイメージは大切だ」と大きな反響を呼んでいます。
そもそも「優性・劣性」とは、19世紀にメンデルが提唱した遺伝の法則に基づいた言葉です。対になる遺伝子を受け継いだ際、その特徴が表面に現れやすい方を「優性」、隠れて現れにくい方を「劣性」と呼んできました。しかし、この漢字が持つ「優れている」「劣っている」というニュアンスが、能力や価値の差であるかのような誤解を招くことが以前から懸念されていたのです。言葉の持つ力は強く、科学的な事実とは異なる偏見を生む土壌になりかねません。
こうした状況を重く見て、2017年には日本遺伝学会が先行して用語の変更を決定していました。今回の日本学術会議による発表は、学術界全体としてこの「呼び替え」を歓迎し、社会へ浸透させていく流れを確固たるものにしたと言えるでしょう。新しく採用される「顕性」は文字通り「顕(あら)われる」ことを意味し、「潜性」は「潜(ひそ)んで」いて見えないことを指しています。性質の優劣ではなく、単に表に出るかどうかの現象を正しく記述した表現なのです。
ただし、学習現場での混乱を最小限に抑えるための配慮もなされています。中学校の教育課程では依然として従来の用語が使われている現状があるため、当面の間は「優性・劣性」を別名として併記する形をとる見通しです。急進的な変化による受験生への負担を避けつつ、徐々に新しいスタンダードへ移行していく知恵が伺えます。段階的な導入は、教育の質を維持しながら新しい価値観を定着させるために、非常に現実的で賢明な判断ではないでしょうか。
また、今回の提言では用語の整理も同時に行われました。高校生物で学ぶべき重要語リストから、すでに中学校で習得済みとみなされる「脳」や「神経」、「心臓」といった18の単語が除外されています。これにより、学習項目は合計494語に絞り込まれました。覚えるべき情報の海に溺れがちな生徒たちにとって、本当に深く学ぶべき専門概念に集中できる環境が整うことは、科学への興味を育む上で極めて意義深い一歩であると感じます。
私自身の視点としても、今回の改訂は単なる言葉遊びではなく、多様性を尊重する現代社会において必須のアップデートだと確信しています。生物の多様な個性に「優劣」というラベルを貼ってしまうことは、科学が目指す客観性とは対極にあるものです。正しい言葉選びが、次世代を担う子どもたちのフラットな視点を養う一助となることを切に願います。2019年07月10日のこの決断が、日本の科学教育における新しい夜明けとなるに違いありません。
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