都会の喧騒が広がる東京・南青山の地で、一本のクスノキの切り株が不思議な運命を引き寄せました。宣伝会議の会長を務める東英弥氏は、かつて自社ビルの敷地内に残されていたその切り株に、並々ならぬ生命力を感じ取ったといいます。20年前、若芽が吹き出したばかりの木に東氏が水を注いでいると、背後から一人の男性が声をかけてきました。これが、世界遺産にも登録されている和歌山県・熊野本宮大社との、長く深い交流の幕開けとなったのです。
不意に問いかけてきたその人物こそ、当時の宮司であった九鬼宗隆氏でした。「なぜこの木を切ってしまったのか」という力強い問いに対し、東氏は入札で手に入れた時には既に切られていたこと、そしてこの木を再生させたいという純粋な願いを語りました。この真摯な思いが通じ、なんと切り株を祀ることで、神様の魂を分けていただく「分霊(ぶんれい)」が行われることになったのです。一見すると無機質なビジネス街の風景が、神聖な場所へと姿を変えた瞬間でした。
現在では、先代の志を継いだ現宮司の九鬼家隆氏が、毎年秋に熊野から東京を訪れて神事を執り行っています。この特別な儀式の後には、立場を超えた二人の語らいの時間が設けられるのが恒例です。SNS上でも「経営者と宮司の交流なんて意外すぎる」「一本の切り株を大切にする心に感動した」といった声が上がっており、合理性が重視される現代社会において、こうした精神的な繋がりを大切にする東氏の姿勢に、多くの人々が共感を寄せています。
立場を超えた「知の共鳴」が地方創生の新たな風を呼ぶ
経営者と宮司という、全く異なる視点を持つ二人だからこそ、忖度のない本質的な対話が可能になるのでしょう。東氏は自らが温めている新しい事業構想を家隆氏に打ち明け、その知見を仰いでいます。家隆氏は非常に勉強熱心な方で、歴史への深い造詣はもちろんのこと、日本各地を巡る中で目の当たりにしてきた「地方の衰退」という重い課題についても、独自の鋭い洞察を持っていらっしゃいます。ビジネスの枠組みに捉われない広い視野が、そこにはあります。
実は、宣伝会議が展開する「コピーライター養成講座」や、2012年4月1日に設立された「事業構想大学院大学」の地方展開という大きなプロジェクトも、彼との対話から生まれたヒントがきっかけでした。事業構想大学院大学とは、新しい価値を創造し、社会の課題を解決するための構想力を養う日本初の専門職大学院です。単なる利益追求ではなく、地域の歴史や文化を尊重しながら新しい事業を立ち上げるという考え方は、まさに宮司との交流で育まれたものと言えるでしょう。
2019年07月10日現在、東氏はクスノキがつないでくれたこの「奇跡の縁」に対して、改めて深い感謝の念を抱いています。一度は切り倒されてしまった木が、人々の知恵と祈りによって再生し、さらには日本の未来を形作る事業の源流となったストーリーは、私たちに大切なことを教えてくれます。目に見える成果ばかりを追い求めるのではなく、目の前にある生命や縁を慈しむ心が、結果として大きなイノベーションを引き寄せるのかもしれません。
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