調布国際音楽祭2019で体感!モーツァルト『後宮からの誘拐』が提示した地域振興と芸術の理想郷

地域を盛り上げるための起爆剤として、芸術文化を積極的に活用する試みが全国で注目を集めています。その中でも、2019年で7年目を迎えた「調布国際音楽祭」は、まさに時代の先端を行く素晴らしい成功例と言えるでしょう。2019年06月28日、東京都の調布市文化会館たづくりにて上演されたモーツァルトのオペラ『後宮からの誘拐』は、その質の高さと親しみやすさで観客を圧倒しました。

今回、世界的に名高いバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が挑んだのは、「ジングシュピール」というスタイルの歌劇です。これは、歌の合間にセリフが入るドイツ語の歌芝居を指しますが、本公演では演出家の田尾下哲氏によってセリフ部分を日本語に変更する工夫が凝らされました。地元の話題を盛り込んだユーモアあふれる演出に、客席からは絶えず温かな笑い声が漏れていたのが非常に印象的です。

SNS上では「一流の演奏なのに、まるでお祭りのような親しみやすさがあった」「調布ならではのネタに親近感がわいた」といった称賛の声が相次いでいます。500席ほどの濃密な空間だからこそ、演奏会形式でありながら歌手の細やかな演技や息遣いまでがダイレクトに伝わってきます。本格的なオペラをこれほど贅沢に、かつリラックスして楽しめる環境は、まさに音楽ファンにとっての理想郷ではないでしょうか。

歌手陣のパフォーマンスも、言葉を失うほど見事なものでした。ヒロインのコンスタンツェを演じた森谷真理氏は、強靭な発声と圧倒的な存在感で聴衆を魅了しました。それとは対照的に、召使ブロンデ役の澤江衣里氏は軽やかで透き通るような歌声を披露しています。スペイン貴族ベルモンテを演じたテノールの櫻田亮氏も、その優雅な節回しで役柄の高貴な品格を見事に表現していました。

特筆すべきは、音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーを務める鈴木優人氏の獅子奮迅の活躍でしょう。彼は指揮者やチェンバロ奏者としての役割にとどまらず、なんと物語のキーマンである太守セリム役のセリフも担当したのです。一人で何役もこなすその多才な姿は、まさに現代の「音楽の魔術師」と呼ぶにふさわしいものです。彼の存在が、音楽祭全体のクオリティーを底上げしているのは間違いありません。

第3幕の名曲「ああ勝利だ」では、オスミン役のドミニク・ヴェルナー氏が放つ深みのある超低音を、鈴木氏が絶妙な指揮でサポートする心憎い演出も見られました。BCJの古楽器アンサンブルは、疾走感あふれるスピードと古楽器特有の素朴で温かい音色を巧みに使い分け、物語に彩りを添えています。わずか8名の合唱団も、その少人数さを感じさせないほどの迫力でホールを包み込みました。

私は、このような「本物」を身近に感じられる取り組みこそが、真の地域振興であると確信しています。単に有名な曲を並べるだけでなく、地元の人々が自然と笑顔になれるような遊び心を忘れない姿勢に、芸術の新しい可能性を感じずにはいられません。高い芸術性を維持しながら、誰もが気軽に楽しめる舞台を作り上げた鈴木氏の手腕には、今後も大きな期待が寄せられることでしょう。

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