人口減少や長引く低金利環境によって、地方の金融機関は厳しい経営状況に直面しています。こうしたなか、東北地方の地方銀行や信用金庫が、金融の枠を超えた新しい試みとして、経験豊富な首都圏の企業OBを**「新現役」と位置づけ、中小企業へ紹介する動きが本格化しています。この取り組みは、単なる資金提供にとどまらず、専門的な知識と実務経験という「知恵」を提供することで、地域の中小企業を力強くサポートしようというものです。
この革新的な動きを後押しするのが、2019年秋からスタートする「東北版」の新現役交流会です。これは、金融庁や復興庁、東北経済産業局といった省庁が、地元の金融機関と連携して開催するもので、OBと企業を直接つなぐマッチングの場を提供します。この交流会を通じて、中小企業は販路開拓や生産性向上といった、喫緊の経営課題を解決するための専門人材を確保できるようになるでしょう。これは、人材供給を通じて企業との関係を深化させ、ひいては金融機関自身の経営基盤強化にもつなげようという、まさに一石二鳥の戦略と言えます。
すでに、この交流会は成果を上げています。2019年5月下旬には、東京・葛飾にある亀有信用金庫の本部で、企業OBと中小企業をマッチングさせる「新現役交流会」が開催されました。山形県鮭川村でエノキダケを生産・販売する縁の起の荒木尚史取締役は、大手外食企業のOBに対し、新商品開発や販売先の拡大といった事業拡大の構想を熱心に語られました。これに対してOBからは、オーガニック野菜として高価格帯での展開を促すなど、具体的な助言が提供されたと伝えられています。
この交流会は、関東経済産業局が持つ約1,800人が登録する人材データベースを基盤として、2011年から合計170回以上も開催され、3,000社以上の企業が参加してきた実績があります。当初は関東の信用金庫が中心でしたが、最近では地方の信用金庫が「相乗り」する事例が増えており、5月の交流会も亀有信金が主催し、山形県の新庄信用金庫が取引先の3社とともに参加しました。これは、地域金融機関が単独で専門的な人材を集めるノウハウが乏しい現状を補い、協働で企業の課題を解決できる人材を探そうという、熱意ある取り組みの現れと言えるでしょう。
マッチング面談は、1社が4人のOBと45分間ずつ面談する形式で進行し、新庄信金の職員が各ブースに付き添い、知識豊富なOBとの対話で戸惑わないよう、取引先企業をサポートしていました。新庄信金の佐藤進常務理事は、都内の会場まで片道3時間半をかけて移動し、合計4時間近い面談にも同席されたとのこと。このきめ細やかなサポートに対し、縁の起の荒木氏は、「融資とは異なる、信金の新たな価値を提供してくれる」と高く評価しています。企業は、希望するOBが見つかれば、国の制度を利用して3回まで無料で派遣を受けられる仕組みになっており、その後、個別契約へ移行することも可能です。関東経産局の発表によると、2018年度は30回の交流会が開催され、マッチング率は5割を超えるという高い成果を上げています。
📚なぜ今、「新現役」が必要なのか?
このような成果を受けて、東北地方でも独自の交流会を求める声が高まり、「東北版」の立ち上げに至りました。既存の交流会は金融機関が単独で主催するため、運営面での負担が大きかったのですが、東北では複数の地銀や信金が共同開催できるようにする予定です。さらに、人口減少が深刻な東北の中小企業にとって、人材確保は大きな課題であるため、対面だけでなく、無料通話ソフト「スカイプ」などを使った遠隔地との面談も検討されています。
「新現役」とは、一般に、大手企業などで豊富な実務経験や専門知識を積み、定年などでリタイアした後も、その能力を活かして地域社会や中小企業で活躍する意欲を持つ人材を指します。人口減が深刻な東北の中小企業は、フルタイム雇用による人件費の上昇を避けたいニーズがあるため、必要な時に助言をくれる顧問などの柔軟な雇用形態を求めています。まさに新現役の人材は、海外展開や新商品開発など、企業の「知恵袋」として、こうしたニーズにぴったり合致する存在なのです。
私の意見として、これは地方金融機関の「本業回帰」と「地域貢献」を結びつける、非常に優れた取り組みだと考えます。企業の資金需要が低迷する「貸し手市場」が続く現状において、銀行や信用金庫が、融資という伝統的な手法だけでなく、人材という非金融の価値を提供することで、経営トップとの関係を深めることは非常に重要です。亀有信金で交流会運営を担当する神田昭雄専任役が言うように、「企業の生産性が向上すれば、取引のパイプが太くなる」という好循環が生まれ、その先に新たな融資の開拓という本業の道も見えてくるでしょう。
この東北での新たな試みが成功するかどうかは、ひとえに地銀や信金が、この人材紹介という新しい役割に、どれだけ本気で汗をかき、経営資源を投入**できるかにかかっています。この挑戦が、東北の地域経済と金融機関双方の未来を切り開く、大きな一歩となることを期待せずにはいられません。
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