地方創生の一つのモデルとして、富山県小矢部市が2015年の北陸新幹線開業に合わせて誘致した「三井アウトレットパーク北陸小矢部」は、大きな注目を集めています。北陸三県で唯一のアウトレットモールとして、その集客力は特筆すべきもので、年間300万人もの来場者を誇るといいます。この大規模な商業施設の存在は、小矢部市にとって交流人口の増加、知名度の向上、そして税収の増加という三つの大きな恩恵をもたらしていることは間違いありません。
小矢部市の桜井森夫市長は、アウトレットモール誘致の成果について、非常に大きな集客力があると実感していると語っています。市長は、アウトレットの隣接地にスーパーマーケットや外食店が集積してきたことや、2019年5月にオープンした温浴施設も、買い物を楽しむ女性を待つ男性のニーズを考慮し、積極的に誘致を働きかけた結果だと説明しており、相乗効果を狙った街づくりを推進している様子がうかがえます。しかしながら、この華やかな成功の裏側には、地方都市が抱える根深い課題も横たわっているのです。
アウトレット効果の「波及」と「定住」の壁
アウトレットモールは市の交流人口を爆発的に増やしましたが、その経済効果が市の中心市街地へ十分に波及していないのが現状です。桜井市長は、年間300万人の来場者のうち、わずか1%でもあいの風とやま鉄道の石動駅(いするぎえき)周辺といった市街地に足を運んでほしいという思いを持っていたそうですが、現実は厳しいといいます。来場者の約9割がマイカーを利用しているため、買い物を終えるとそのまま市外へ帰ってしまう傾向が強く、中心地の活性化には結びつきにくいのです。
この課題を克服するため、市は石動駅近くへのビジネスホテル誘致を喫緊の課題と捉え、複数のホテル会社と交渉を進めているとのことです。市内にあるゴールドウインやLIXILといった企業から得たデータに基づき、平日の宿泊見込み数を提示するなど、緻密な誘致活動を展開しています。また、休日は観光客の宿泊需要も見込めることから、広域的な連携にも期待が高まります。しかし、こうした努力にもかかわらず、小矢部市は2019年5月に富山県内の市として初めて人口3万人を割り込み、人口減少という最も重要な課題に直面しています。
私は、この人口減少こそが小矢部市が乗り越えるべき最大の壁だと考えます。定住人口の増加なくして真の地方創生はあり得ません。アウトレットモールの従業員1,100人のうち、市外から通勤する900人を対象に行った調査では、実にその3割が小矢部市に住みたいと回答していることが明らかになりました。この事実は、市が持つ潜在的な定住魅力を示唆しており、非常に大きなチャンスです。
若い世代を惹きつける住宅と「メルヘン建築」の未来
住みたいという意欲があるにもかかわらず定住に至らない最大の要因は、「若い世代が住みたくなるような、おしゃれでセキュリティーがしっかりした住宅がない」ことだと市長は指摘します。人口が減少する時代に市が公的に住宅を整備するのは難しいという認識のもと、今後は民間の集合住宅への投資を促していく方針です。また、2019年4月には定住支援課を新設し、UIJターン(都市部から地方への移住)の相談を受け付けており、4月は約150件、5月は約110件と、多くの相談が寄せられていることから、移住への関心は非常に高いことがわかります。
さらに小矢部市には、ベルサイユ宮殿など国内外の有名建築に似せて造られた「メルヘン建築」と呼ばれるユニークな公共施設が30軒以上存在し、築40年前後を迎え、その維持が課題となっています。一部の保育所などは少子化の影響で解体せざるを得ないものの、桜井市長はこれらを地域資源とみなし、継続できるものは維持していきたいと考えています。民間からも社屋や介護施設としての活用を希望する声があるほか、クラウドファンディングを活用し、広く知恵や資金を集めて観光資源としても生かしていきたいと、新たな可能性を模索中です。
こうした市の取り組みに対し、SNS上でも「アウトレット効果を市街地にどうつなげるかは永遠の課題」「住みたい人がいるのに家がないのはもったいない」「メルヘン建築は観光資源としてもっとPRすべき」といった、課題と期待が混じった反響が寄せられています。特に、アウトレットの立地が北陸自動車道と東海北陸自動車道の結節点(二つの高速道路が交わる場所)という交通の利便性に優れていることは、広域からの集客を可能にする一方、金沢市や高岡市といった周辺の人口の多い都市からの通勤も容易にしてしまうことを意味します。この「行き来のしやすさ」は、定住人口増加の視点から見ると、大きな課題となるのです。
小矢部市が定住人口を増やすためには、単に仕事がある、買い物ができるというだけでなく、「小矢部に住まなければ得られない」と思わせるような、子育て支援やコミュニティの魅力など、独自の利点を創造し、積極的に訴求していくことが不可欠でしょう。アウトレット誘致という成功体験を足掛かりに、市が今後どのような住宅政策と魅力づくりを展開していくのか、地方創生のモデルケースとして注目していきたいものです。
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