戦跡フィリピンに消えた詩人を追う。宮内悠介が描く『遠い他国でひょんと死ぬるや』に刻まれた戦争と現代の接点

2019年09月26日現在、戦争の記憶をどう次世代へ語り継ぐかが大きなテーマとなっています。かつて映画化もされ話題を呼んだ『この世界の片隅に』は、戦時下の日常を女性の柔らかな視点で切り取り、私たちに新鮮な衝撃を与えてくれました。しかし、実際に火の粉を浴びた経験を持たない若い世代にとって、遠い過去の出来事を自分事として捉えるのは決して容易ではありません。そんな中、宮内悠介氏の最新作『遠い他国でひょんと死ぬるや』は、新しい角度から歴史と対峙する一冊として注目を集めています。

本作の鍵を握るのは、第2次世界大戦中にフィリピンのルソン島で消息を絶った実在の詩人、竹内浩三です。タイトルの由来は、彼が自身の出征と戦死を予感して詠んだ「骨のうたう」という詩の一節から取られました。物語は、この詩人の足跡に強く惹かれたテレビ局の元ディレクターが、会社を辞めてまで現地へ向かうところから動き出します。彼は竹内が密かに残したかもしれないノートを追い求め、灼熱の地へと足を踏み入れます。SNS上では「戦争文学の枠を超えたミステリーのようだ」と、その独自の構成に驚きの声が上がっています。

主人公の行動は一見すると、目的を失った若者が自分探しをする「モラトリアム小説」のような、どこか危うく行き当たりばったりな旅に見えるかもしれません。ここで言うモラトリアムとは、社会的な責任を猶予されている心理状態を指しますが、物語が進むにつれてその空気感は一変します。現代のフィリピンが抱える混沌とした情勢や緊張感のある描写が積み重なることで、読者はいつの間にか戦時中の激戦地としての過去へと引きずり込まれていくのです。軽やかな足取りで始まった旅が、重厚な歴史の深淵に触れる瞬間の鳥肌が立つような感覚は、本作ならではの醍醐味と言えるでしょう。

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過去と現在が交錯するフィリピン。忘却に抗う言葉の力

著者の宮内氏は、SF的な感性と緻密な取材力で知られる作家ですが、今作でもその手腕がいかんなく発揮されています。舞台となるルソン島は、かつて日本軍と連合国軍が凄惨な戦いを繰り広げた場所でありながら、今の私たちにとっては身近なリゾート地のイメージが先行しがちです。本書はそんな「近くて遠いアジア」という複雑な鏡に、過去の亡霊と現代のリアルを同時に映し出しています。歴史的な視点が鋭く立ち現れてくる展開に、読んでいるこちらまで背筋が伸びる思いがします。これは単なる追悼の書ではなく、今を生きる私たちの認識を激しく揺さぶる挑戦状なのです。

私自身、この記事を執筆しながら感じたのは、言葉というものが持つ執念の恐ろしさと美しさです。竹内浩三が戦地で紡いだ言葉を、数十年後の人間が追い求める姿は、記憶が風化することへの最大の抵抗に他なりません。どれほど時が流れても、誰かがその「声」を拾い上げる限り、歴史は終わらないのだと強く確信させられました。アジアとの絆や葛藤を解きほぐそうとする本作は、今の日本人が読むべき一冊と言えるはずです。竹内が夢見たこと、そして彼が最後に見た景色を、ぜひ皆さんもページをめくって追体験してみてください。

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