SNSでも話題!17世紀オランダ美術の天才 ニコラス・マースの「盗み聞きする召使」が仕掛ける“だまし絵”の魅力

絵画史上、17世紀オランダは市民生活の活気にあふれた豊かな時代として知られていますが、その日常をユーモラスに切り取った作品が今、再び注目を集めています。今回ご紹介するのは、オランダを代表する画家の一人であるニコラス・マースが1655年に手掛けた油彩画「叱る女と盗み聞きする召使」です。この作品は、観る者を絵の中の世界に引きずり込む、巧みな仕掛けが隠された「観客参加型アート」とも呼べる魅力に満ち溢れています。

当時のオランダ社会では、核家族が主流となりつつありましたが、実に10%から20%の世帯で最低一人の召使が雇われていたと考えられています。召使は、家事を取り仕切る女主人の勤勉な助け手として描かれることが多かった一方で、仕事から逃れようとする怠け者という対照的な姿で描かれることもありました。しかし、マースはこれらの一般的なイメージから一歩踏み出し、召使をより身近で人間味あふれる、ユーモラスな存在として描き出しているのが特徴です。

この作品の中心には、上階の部屋から漏れ聞こえる女主人の声に、人差し指を口に当てて「しっ、静かに。聞いてごらん」と、いたずらっぽく観る者に話しかけてくる召使の姿があります。こちらに向ける茶目っ気たっぷりの視線は、観る者をまるで共犯のように巻き込み、秘密の共有者にしてしまうでしょう。マースは、召使というテーマがお気に入りで、詮索好きで好奇心旺盛なキャラクターを繰り返し登場させていたようです。

この絵画の演出に欠かせないのが、画面上部に描かれた**「だまし絵」のカーテンです。当時、実際の絵画は保護のために額縁の上枠から本物のカーテンが掛けられていましたが、マースはそれをまるで本物がそこにあるかのように、きわめてリアルに描き込みました。この、まるで本物のように描かれたカーテンの存在が、召使が盗み聞きしている「叱る声の主」を私たちから隠しているのです。観る者は、この邪魔な布を思わず引いて、その真相を知りたいという強い衝動に駆られるに違いありません。

その結果、観客は自身が召使の盗み聞きの「共犯者」であるという事実に気づかされます。この巧みな表現手法、つまりトロンプ・ルイユ**(Trompe-l’œil、フランス語で「目をだます」という意味の技法)は、当時のオランダ市民にとって、大いに楽しめた仕掛けだったでしょう。家でこの絵を見たであろう、女主人はもちろん、召使、夫、そして子どもたちまで、それぞれの立場を超えて、このユーモラスな「だまし」に気づいた時、思わず笑顔をこぼしたに違いありません。

現代の私たちは、ついこの絵に描かれている召使の行動を「プライバシーの侵害」といった現代的な倫理観で捉えがちです。しかし、この作品の真髄は、道徳的な教訓を説くことではなく、むしろ人々の詮索好きな一面を肯定的に捉え、それをユーモアへと昇華させた点にあると私は考えます。誰もが持つのぞき見願望を逆手にとり、絵画の中に引き込むマースの視点は、まさに市民目線の天才と言えるでしょう。

この古典的な作品が、SNS世代の関心を集めているのは、この「共犯者体験」が、まるでインタラクティブなコンテンツのように感じられるからでしょう。「17世紀のTwitterのぞき見現場」「召使の表情が面白すぎる」といったコメントとともに、作品の図版が多く拡散されています。1655年制作という時を超えて、この作品が持つエンターテイメント性は、現代の私たちにも強く響いていると言えるでしょう。この傑作は、油彩で板に描かれており、サイズは46.4×72.1センチです。

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