2019年09月29日、音楽の都ウィーンが揺れました。オーストリア下院選挙の投開票が行われ、政界を揺るがす大きな地殻変動が起きたのです。注目を集めていた極右の「自由党」は、相次ぐスキャンダルの代償を払う形で得票率を大幅に減らし、事実上の自滅に追い込まれました。かつての勢いはどこへやら、有権者の厳しい審判が下された格好です。
一方で、スポットライトを浴びたのは中道右派「国民党」を率いるセバスティアン・クルツ元首相でした。暫定結果によると、国民党は前回から6.9ポイントも数字を伸ばし、38.4%という圧倒的な得票率で勝利を収めています。若干33歳の若きリーダーであるクルツ氏は、これで首相への返り咲きをほぼ手中に収めたと言えるでしょう。まさに「クルツ旋風」の再来です。
自由党の敗因は、あまりにも劇的な自爆劇にありました。2019年05月、当時のシュトラッヘ党首がロシアの富豪関係者を名乗る女性に対し、不正な利益供与を約束する映像が暴露されたのです。この「イビサ事件」により連立政権は崩壊しました。さらに選挙直前には、党の資金を私的な家賃に充てていた疑惑まで浮上し、支持者の失望はピークに達したのです。
SNS上では「自由党の自業自得だ」「これほど露骨な汚職は信じられない」といった厳しい声が噴出しています。自由党のホーファー党首は、選挙戦を「毎日重い石をリュックに詰め込まれるような苦しさだった」と例えましたが、自らが招いた不祥事の重みは計り知れません。皮肉にも、スキャンダルの「犠牲者」として同情を集めたクルツ氏とは明暗が分かれました。
極右の退潮か、それとも先鋭化の序章か?欧州を襲うポピュリズムの変質
ここで改めて解説しておきたいのが「極右」という存在です。これは一般的に、自民族の利益を最優先し、移民や難民の受け入れに強く反対する政治勢力を指します。オーストリア自由党は、かつてナチスを擁護する発言で物議を醸したハイダー氏が率いた「極右の老舗」であり、2017年には政権入りを果たして欧州における右派台頭の象徴となっていました。
しかし、今回の敗北で自由党が野党に転落すれば、その主張はさらに過激さを増す恐れがあります。党内には「移民排斥の路線は間違っていない」と確信する幹部も多く、下野することで反イスラムなどの主張を一段と先鋭化させる可能性があるからです。政権内で現実的な政策を模索するよりも、外側から過激な言葉を投げかける方が、彼らにとっては容易かもしれません。
私自身の見解を述べさせていただくなら、今回の結果を安易に「極右の終焉」と捉えるのは早計だと考えます。イタリアの「同盟」など、隣国でも極右勢力は依然として高い支持を維持しています。彼らは今や、伝統的な政党に対する「不満の受け皿」として社会に深く根付いてしまいました。戦術的なミスで議席を減らしたとしても、その支持基盤は岩盤のように強固です。
むしろ深刻なのは、既成政党が極右の主張を取り込み始めている点です。大衆の感情に訴えかける「ポピュリズム」の手法が広まり、保守本流であるはずの国民党ですら難民への厳しい姿勢を強めています。政治の土俵全体が右寄りにシフトしていく現状は、民主主義のあり方に一石を投じています。クルツ氏の連立交渉の行方から、今後も目が離せません。
コメント