2019年6月18日、地場の大手企業であるトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)と農業機械大手のオーレック(福岡県広川町)が、スタートアップ企業との協業や情報発信、そして未来の人材開発を目的として、福岡市の中心部に新たな拠点を相次いで開設しました。これは、スタートアップ企業の集積が進む**「スタートアップ都市」福岡において、大手企業が起業家や若手エンジニアとの接点を意図的に増やし、オープンイノベーション(外部の知見や技術を取り入れることで、自社だけでは生み出せない革新的な価値創造を目指す手法)を加速させようという、極めて戦略的な動きであると私は評価しています。
トヨタ自動車九州は、6月15日に福岡・天神の商業施設「イムズ」内に、協業やイベント開催のための拠点「ギャラウェイ エフ」をオープンさせました。約202平方メートルの延べ床面積を持つこの施設は、コワーキングスペースの運営実績を持つゼロテンパーク(福岡市)に運営が委託されています。50席の交流ラウンジを設け、フリードリンク制で、利用料は1日1,500円または1時間500円という設定です。同社は、生産効率の向上に資する技術や、MaaS(マース)といった次世代の移動サービスをテーマにアイデアを募り、優れた提案があれば積極的に協業へ繋げていく方針を示しています。MaaSとは、Mobility as a Service(サービスとしての移動)の略称で、バスや電車、タクシー、シェアサイクルなど、多様な交通手段を情報通信技術(ICT)で連携させ、一つのサービスとして提供する取り組みを指します。
一方、農業機械のトップメーカーであるオーレックが開設したのは、地下鉄赤坂駅近くの4階建てビルにある新拠点「グリーンラボ福岡」です。延べ床面積は約267平方メートルで、本社にあったブランディング部門をこちらに移管いたしました。1階から3階にはカフェを併設し、有機農産物を使用した飲食物を提供するとともに、イベントスペースも設けて、農機だけでなく農業に関連する書籍なども展示する計画です。同社はこれまでにも、2016年に長野市、2017年に青森県弘前市といった、農機の需要が多い地方都市にショールームを開設し、製品のアピールを主に行ってきました。
しかし、今回の「グリーンラボ福岡」の狙いは、これまでの地方戦略とは大きく異なります。農林水産省のデータによりますと、日本の農業就業者は2010年の約260万人から2018年には175万人へと大幅に減少し、平均年齢も66.8歳と高齢化が深刻に進んでいる状況です。こうした背景から、新拠点の最大の目的は、都市部で農業の魅力を幅広く発信し、これまで接点が少なかった学生やスタートアップといった多様な人材との交流を促進することにあるのです。「農業の魅力を都市から発信する」という発想の転換は、若者の就農や新たなビジネス創出のきっかけとなる「アグリテック」(AgricultureとTechnologyを組み合わせた造語で、ITなどの先端技術を活用した農業のこと)の発展に不可欠であると、強く感じています。
オーレックは、植物工場事業や、2万人を超える家庭菜園愛好家が登録する交流サイトの運営など、新規事業の開発に非常に積極的です。また、2018年には本社に技術開発棟(テクノセンター)を新設し、開発部門の社員をこの5年間で5割増の約50人にまで拡大しています。就農者の高齢化と人口減少という社会課題を見据え、無人農機の開発も推進しているとのこと。さらに、福岡市内の大学や高等専門学校、高校向けに会社説明会を開くなど、若い人材の採用にも意欲的です。
特に、オーレックの新拠点が開設された赤坂エリアは、福岡市が運営する起業支援拠点「フクオカグロースネクスト」にも近く、スタートアップ企業の集積地として知られています。このため、IT(情報技術)を応用したスマート農業の開発における、スタートアップとの協業も大いに期待できるでしょう。東京の五反田エリアでも、スタートアップの開業が相次いでいることを受け、IT大手などが協業拠点を設ける動きが活発化しており、地方の中核都市である福岡でも同様のトレンドが生まれつつあります。
このように、地元の大手企業が、スタートアップ企業が多く集まる都市の中心部に拠点を設け、若手起業家との連携や新しいビジネスモデルの探索を進める動きは、福岡市の活力をさらに高める起爆剤となるに違いありません。SNS上でも、「地元の老舗企業と新しい風を起こすスタートアップの化学反応に期待大!」「福岡の『スタートアップ・エコシステム』**(起業家とその支援組織、投資家などが連携し、継続的にイノベーションを生み出す仕組み)がまた一歩前進した」といった、未来への期待を示すポジティブな反響が多く見受けられました。このような動きが全国の地方都市に広がることを、編集者として心から願うばかりです。
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