大学の講義といえば、難解な数式や歴史の暗記を想像する方も多いかもしれません。しかし今、日本の大学では「日本酒」や「京都」といった、地域の宝を学問として探究する「ご当地学」が空前の熱気を帯びています。2019年10月16日現在、新潟大学や神戸大学、同志社大学といった名門校が、地元の産業や文化をカリキュラムの柱に据え、学生たちの心を掴んでいるのです。
特に注目を集めているのが、2018年度に新潟大学が設置した「日本酒学センター」です。開設初年度の講義には、定員の4倍にあたる800人もの学生が殺到し、教室は立ち見が出るほどの盛況ぶりを見せました。2019年度もその人気は衰えず、若者たちの日本酒に対する関心の高さが浮き彫りになっています。SNSでも「大学で酒を学ぶなんて最高」「自分の県をもっと知りたくなった」とポジティブな声が広がっています。
この「日本酒学」の面白い点は、単にお酒の作り方を学ぶだけではないという点でしょう。法学、経営学、農学といった既存の学問領域を横断し、飲酒が健康に与える影響から酒蔵の経営戦略までを体系的に分析します。身近なテーマを自分の専門分野に引き寄せて考察できるため、学生にとっては実学としての手応えを感じやすい構成になっています。
背景にあるのは、若者の日本酒離れや市場縮小という切実な課題です。こうした現状を打破するため、新潟大学は県や酒造組合とタッグを組み、産官学連携を加速させています。実際に、博物館のフジの花から採取した酵母を用いた新種の日本酒開発も進んでおり、2020年春の販売を目指しているとのことです。文系の知見を活かしたストーリー作りも期待されており、まさに全学を挙げた挑戦といえます。
神戸や京都でも加速する「地域愛」を育む教育のカタチ
兵庫県の神戸大学でも、伝統の「灘の酒」をテーマにした講義が本格化しています。2018年10月に始まった「日本酒学入門」は、2019年度から継続的な「総合教養科目」へと格上げされました。これは、特定の専門分野に限らず、全学生が共通して履修できる科目のことです。大学側は「神戸大学にいながら神戸を知らないのはもったいない」という強い思いを抱いています。
神戸大学の取り組みはさらに広がりを見せており、震災学習や瀬戸内海の環境を学ぶ「瀬戸内海学入門」など、11もの科目を「神戸学」として展開しています。学生の約半数が他地域出身である同校において、これらの講義は地元への理解を深め、将来的な地域定着を促す重要な役割を担っているのです。
一方、古都・京都に構える同志社大学では、2018年度から「京都科目」を新設しました。文化庁の京都移転を見据えた包括協定に基づき、華道の実作や京町家の見学といった体験型の講義を充実させています。単なる座学にとどまらず、実際に街を歩き、伝統文化に触れることで、日本人の美意識や自然観を養う狙いがあります。
こうした「ご当地学」の広がりは、大学が象牙の塔にこもるのではなく、地域のハブとして機能し始めた証左といえるでしょう。私自身、若者が自分の学ぶ場所の価値を再発見することは、地方創生の第一歩だと確信しています。地元の魅力を論理的に語れる人材が増えることは、日本の多様性を守る力強い盾になるはずです。
さらに、この動きは個別の大学に留まりません。福岡では5つの大学が連携した「博多学」が展開され、2019年3月には全国の研究者が集う「日本酒学研究会」も設立されました。多角的な視点で地域の資産を磨き上げるこの潮流は、今後さらに加速していくことでしょう。若者たちの情熱が、伝統産業に新しい息吹を吹き込む日が楽しみでなりません。
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