台湾が誇る世界最大の電子機器受託生産(EMS)企業、鴻海(ホンハイ)精密工業が、巨大な転換点を迎えています。2019年6月21日、45年間で売上高18兆円の巨大グループを築き上げたカリスマ創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏(68)が、経営トップの座から降りるのです。SNS上では「郭氏のいない鴻海なんて」「ついに政治の道へ」と驚きの声が広がっています。
郭氏は2019年4月中旬に台湾の次期総統選への出馬を表明して以来、政治活動に没頭しています。台湾各地を巡り、時には女子高生とダンスを披露するなど、従来の「こわもてのワンマン経営者」のイメージ払拭に必死です。2019年5月23日には選挙カーで笑顔を振りまき、経営からは既に距離を置いた姿勢を見せています。
最大の焦点は「誰が後を継ぐのか」です。2019年6月21日の株主総会後の取締役会(董事会)で新トップが選出されます。鴻海は「カリスマ依存経営からの脱却」を掲げ、チーム体制への移行を目指しますが、後継候補は3人に絞られたと見られています。
最有力候補は、鴻海の将来の成長源と位置づけられる半導体事業を統括する劉揚偉(リウ・ヤンウェイ)氏(63)です。郭氏自らが「次代のホープ」と紹介した人物で、経営手腕が期待されています。次点は、郭氏の腹心でグループナンバー2の呂芳銘(ルウ・ファンミン)氏。こちらは次世代通信「5G」関連の戦略を任されると目されています。
ダークホースとして、ビッグデータの専門家である李傑(リー・ジエ)氏の名も挙がっています。一方で、シャープの戴正呉(タイ・セイゴ)会長兼社長は、鴻海の役員名簿に復帰したものの、「鴻海の事業執行には関わらない」と2019年5月27日に明言し、シャープ経営への専念を強調しました。
しかし、このトップ交代劇は、まさに嵐の中で行われます。主力であった米アップルのスマートフォン需要が振るわず、2019年1~3月期の連結純利益は前年同期比18%減と、過去5年で最低水準に落ち込みました。さらに米中貿易戦争が経営を直撃しています。
米国がスマホなどを対象に関税「第4弾」を発動すれば、中国で生産し米国に輸出するという鴻海のビジネスモデルは根幹から揺らぎます。さらに、重要顧客であるファーウェイ(華為技術)も米国の制裁で苦境に立たされています。郭氏の出馬表明から株価が2割強下落する中、新体制は、まさに荒波の中での厳しい船出となりそうです。
コメント