2019年10月21日、秋の深まりとともに京都の街が芸術の熱気に包まれています。かつて日本美術の歴史を揺るがした伝説の絵巻「佐竹本三十六歌仙絵」をご存じでしょうか。鎌倉時代に制作されたこの至宝は、もともと2巻の美しい絵巻物でしたが、100年前のちょうど今頃、驚くべき運命を辿ることになったのです。
もともと秋田藩主の佐竹家に伝来したこの名品は、大正時代に売りに出されました。しかし、当時のあまりの巨額さに一人で買い取れる者は現れず、海外への流出が危惧される事態に陥ります。そこで立ち上がったのが、近代日本を代表する実業家であり茶人でもあった益田鈍翁ら、当時の有力者たちでした。
運命を分けた「伝説のくじ引き」と断簡の誕生
1919年12月20日、彼らはこの貴重な絵巻をバラバラに切り離して共同購入するという、現代では考えられない大胆な決断を下しました。これが、美術史に名高い「佐竹本の分割」です。切り取られた各歌人の一場面は「断簡(だんかん)」と呼ばれます。これは巻物や冊子から切り離された断片を指す言葉で、当時は茶の湯の席に飾る掛け軸として珍重されました。
所有者を決める方法は、なんと「くじ引き」というスリリングなものでした。高潔な歌仙たちを誰が手にするか、茶人たちが一喜一憂したドラマからちょうど100年。離ればなれになり、各地のコレクターの元で大切に守られてきた歌仙たちが、2019年10月12日から京都国立博物館で開催中の特別展で、奇跡の再会を果たしています。
SNSでは「これほど多くの歌仙が一度に揃うのは一生に一度の機会」「くじ引きでバラバラになったという背景を知ると、一枚一枚の再会に胸が熱くなる」といった感動の声が次々と投稿されています。分割という悲劇を乗り越え、今日まで守り抜いた先人たちの情熱には、同じ美術愛好家として深い敬意を禁じ得ません。
私は、この分割という行為が、単なる破壊ではなく「守るための苦渋の選択」であった点に強く心を打たれます。個々の断簡として愛でられたことで、それぞれの歌仙が独自の輝きを放つようになったとも言えるでしょう。11月24日までの会期中、王朝文化の粋を極めた雅な美しさを、ぜひその目で確かめてみてください。
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