アジア太平洋地域の経済を大きく塗り替える可能性を秘めた、巨大な自由貿易圏の構築に向けた動きが佳境を迎えています。2019年11月3日、タイのバンコクにおいて、インドのモディ首相とインドネシアのジョコ大統領による重要な個別会談が行われました。今回の協議の焦点は、東アジア地域包括的経済連携、通称「RCEP(アールセップ)」をめぐる最終的な調整にあります。これは日本や中国、韓国、そしてASEAN諸国など計16カ国が参加を目指す、世界最大級の自由貿易協定です。
RCEPとは、参加国間での関税を撤廃したり、投資のルールを共通化したりすることで、モノやサービスの流通を活性化させる枠組みを指します。いわば、アジアを一つの巨大なマーケットにするための壮大なプロジェクトと言えるでしょう。2019年11月4日に予定されている首脳会合を目前に控え、各国は何とかして目に見える成果を打ち出したいと考えています。しかし、巨大な市場ゆえの利害対立が、交渉の最終局面で大きな壁となって立ちはだかっているのが現状なのです。
インドが抱える国内産業への懸念と交渉の停滞
現在、交渉の最大の焦点となっているのがインドの動向です。モディ政権は、関税の大幅な引き下げによって中国製の安価な製品が国内に大量流入し、自国の製造業や農業が壊滅的な打撃を受けることを強く警戒しています。この慎重な姿勢を崩さないインドに対し、ASEAN側の調整役であるジョコ大統領が粘り強い説得を試みました。日本を含む他の15カ国も、2019年11月1日の閣僚会合に続き、3日にも非公式の協議を重ねるなど、インドの歩み寄りを引き出すために懸命な調整を続けています。
SNS上では、この緊迫した状況に対して「日本にとっても中国市場へのアクセスが良くなるメリットは大きいが、インド抜きでは意味が半減してしまう」といった冷静な分析や、「自国産業を守ろうとするインドの気持ちも理解できる」といった同情の声が寄せられています。目標としていた2019年内の完全合意は極めて難しい情勢ですが、多くの分野で実質的な合意に達していることも事実です。安倍首相も出席する4日の首脳会合で、どこまで前向きなメッセージを世界に発信できるかが、今後のアジア経済の命運を握るでしょう。
編集者の視点から言えば、自由貿易の推進は消費者にとって安価な商品が手に入る恩恵がある一方で、国家としては「守るべき聖域」をどう定義するかが常に問われます。インドがこの巨大な経済圏に踏みとどまるのか、あるいは独自の道を歩むのか、その決断はアジア全体のパワーバランスを劇的に変える可能性を含んでいます。交渉が漂流することだけは避けてほしいところですが、安易な妥結ではなく、各国が納得できる持続可能なルール作りを期待せずにはいられません。
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