日本の流通業界を長年牽引してきたダイエーが、2019年11月からブランド初となる移動販売事業に乗り出します。まずは神奈川県横浜市を拠点にスタートし、年内には東京都内への拡大も視野に入れているとのことです。かつて低価格路線で急成長を遂げた同社が、今なぜ「店舗を動かす」という選択をしたのか、その背景には現代社会が抱える切実な課題が隠されています。
今回のプロジェクトは、2019年11月13日から「イオンフードスタイル港南台店」を起点に本格始動する予定です。神奈川県営日野団地など、店舗周辺の計6箇所を週5日のペースで巡回します。生鮮食品である肉や魚をはじめ、調味料や日用品など約300品目ものアイテムを積み込み、1箇所につき20分ほど停車して販売を行うスタイルは、まるで街にやってくる小さな商店街のようです。
デジタルとリアルの融合が拓く新しい買い物体験
ダイエーが今回重視しているのは、利便性の提供だけではありません。支払いにはWAON(ワオン)カードなどのキャッシュレス決済を基本に据えており、購入データの分析を通じて住民のニーズを精緻に把握しようとしています。移動販売という一見アナログな手法に、最新のデジタル戦略を組み合わせる点は、IT化を推進する同社らしい革新的な試みであると言えるでしょう。
ここで注目したいのが「買い物難民(買い物弱者)」と呼ばれる方々の存在です。これは、高齢化や地元商店の減少により、日常の食料品等の買い出しが困難になった人たちを指す専門用語です。ネット通販が普及した現代でも、「自分の目で鮮度を確かめたい」「店員さんと会話しながら選びたい」という対面販売への需要は非常に根強く、移動販売はこうした心の交流を埋める役割も果たします。
SNS上では、このニュースに対して「坂道の多い横浜の団地では本当に助かるはず」「親の世代が心配だったので、大手スーパーが来てくれるのは心強い」といった期待の声が続出しています。単なる商売の枠を超えて、地域の高齢者を見守るセーフティネットとしての機能を期待する意見も多く、ダイエーの新しい挑戦に対する世間の関心の高さが伺えます。
地域に寄り添うダイエーの新たな決意
ダイエーの伊藤秀樹執行役員は、これまで効率化やデジタル化を追求してきた一方で、高齢化が進む地域社会における自社の存在意義を改めて問い直したと語っています。1977年から営業を続ける港南台店が、地元の社会福祉協議会と対話を重ねて実現させたこの事業は、まさに地域密着を体現した形です。先行するイオンリテールの事例でも、雨天の中を行列ができるほどの盛況ぶりが報告されています。
筆者の視点から見れば、この取り組みは単なる「不便の解消」に留まらず、孤立しがちな高齢層に「外出のきっかけ」を与える素晴らしい施策だと感じます。1品につきわずか10円程度の手数料で、自宅のすぐ近くまで新鮮な食材が届く喜びは、生活の質を大きく向上させるに違いありません。大手資本が本腰を入れて地域福祉に参画する流れは、今後さらに加速していくでしょう。
コメント