2019年11月30日、日本のお家芸ともいえる自動車産業の重要拠点、東南アジアで不穏な空気が漂っています。これまで圧倒的なシェアを誇ってきた日本メーカー各社ですが、米中貿易戦争の余波による景気減速という巨大な逆風にさらされています。2019年11月29日、バンコクで開幕した「モーターエキスポ」では新型車が華々しくお披露目されましたが、その裏側では工場の閉鎖や減産といった深刻な事態が進行しているのです。
SNS上では「タイの景気がそんなに悪いとは驚きだ」「日産がインドネシアで生産停止するのはショック」といった困惑の声が広がっています。実際に数字を見るとその深刻さは明白です。2019年の東南アジア主要6カ国の新車販売台数は、4年ぶりに前年を割り込む可能性が濃厚となりました。特に域内最大の生産拠点であるタイでは、1月から9月にかけて自動車部品工場25カ所が閉鎖に追い込まれるという異常事態に陥っています。
「バーツ高」という名の足枷。アジア通貨危機の教訓が皮肉な結果に?
タイの市場を冷え込ませている最大の要因は、約6年ぶりの高値圏で推移する通貨「バーツ」の独歩高です。皮肉なことに、かつてのアジア通貨危機の反省からタイが進めてきた経済の健全化が、投資家から「安全な資産」と見なされる結果を招きました。年初から約7%も上昇したバーツは、輸出大国であるタイにとって製品の価格競争力を奪う大きな痛手となっており、景気の足取りを重くしています。
ここで専門用語を解説しましょう。「公的債務(こうてきさいむ)」とは、国が抱える借金のことで、この割合が低いほど国の財政は健全だと判断されます。タイはこの指標が優れていたため通貨が買われ続けましたが、その「健全さ」が輸出採算を悪化させるというジレンマに陥りました。2019年7月から9月期の経済成長率は2.4%まで沈み込み、これは2014年の軍事クーデター時以来という異例の低水準です。
日産は生産停止を決断。三菱自も利益予想を9割以上も下方修正
この苦境はメーカーの経営を直撃しています。日産自動車は、インドネシアでの完成車生産を2020年から停止することを決めました。かつてのカリスマ、カルロス・ゴーン氏が主導した新興国ブランド「ダットサン」の不振に加え、景気減速がとどめを刺した形です。さらに、東南アジアに強みを持つ三菱自動車は、2020年3月期の連結純利益予想を650億円から一気に50億円へと、実に9割以上も引き下げました。
一メディア編集者としての私の主張は、この東南アジアの変調を「一時的な調整」と楽観視すべきではないということです。タイの部品メーカーでは既に100人規模の一時解雇が発生しており、雇用への影響は深刻です。日本メーカー各社は新型「ヤリス」や「シティ」などで燃費性能を約15%向上させるなど、必死のテコ入れを図っていますが、消費者の購買力そのものが落ち込んでいる現状では、スペック向上だけで太刀打ちするのは容易ではないでしょう。
2019年11月30日の現在、東南アジア各国の輸出を支える石炭やパーム油などの価格も下落しており、地域全体の購買力が地盤沈下しています。日本車にとって「最も利益率が高い」と言われるこの市場での苦戦は、日本経済全体への波及も避けられません。2020年半ばまでは厳しいとの見方が大勢を占めるなか、日本車勢がこの「魔の2019年」をどう乗り越え、次の一手を打つのか。まさに正念場に立たされています。
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