東日本大震災の発生から年月が経過する中で、被災地である東北地方から新たな防災イノベーションが次々と生まれています。スタートアップ企業や地域を支えてきた町工場が、自らの辛い体験を糧にして、社会の安全を守る画期的な製品やシステムを世に送り出しているのです。
宮城県多賀城市に拠点を置くスタートアップのワンテーブルは、2019年5月に待望の新工場を完成させました。そこで生産されるのは、長期間の保存が可能な画期的な備蓄食ゼリー「LIFE STOCK」です。社長の島田昌幸氏自身が震災で被災した経験から、水や食料が不足する避難所でも誰もが栄養を補給できる食品として考案されました。
閉鎖的で物資が限られる避難所の環境は、どこか宇宙空間に似ていると言えるでしょう。この点に着目した同社は、なんと宇宙航空研究開発機構(JAXA)ともタッグを組み、共同で商品開発を進めています。SNS上でも「宇宙食の技術が防災に活かされるなんて素晴らしい」「ゼリーなら小さな子どもでも食べやすそう」といった驚きと期待の声が広がっている状況です。
同社は2019年度中に、地元企業や自治体も巻き込みながら、新たな商品やサービスを3件企画するという高い目標を掲げています。島田社長は「防災を持続的な産業にしたい」と力強く語気を強めました。防災意識が低下すれば市場が縮小し、せっかくの優れた技術が埋もれてしまう危険性があるからです。
最新システムで最適な備蓄をシミュレーション
防災を持続可能な形にするため、ワンテーブルは現在、全く新しいシミュレーションシステムの開発に注力しています。これは、自治体管内の世帯数や人口構成、障害者の人数といったデータを入力するだけで、最適な備蓄食や日用品の量を自動で算出してくれる非常に便利な仕組みです。
さらに、リアルタイムの気象情報や災害状況を反映し、物資不足の兆候を知らせるアラート機能の実装も予定されています。このシステムには、BCPを自動作成するオプションも追加される方針です。BCPとは「事業継続計画」の略称で、企業や自治体が災害などの緊急事態に直面した際、損害を最小限に抑えつつ中核となる業務を継続・復旧させるための行動指針を指します。
IT企業との共同開発によって進められているこの一大プロジェクトは、2020年1月までに2億円から10億円の資金調達を行い、システムの完成を目指しているとのことです。私個人としても、一過性の備えではなく、テクノロジーを駆使して防災を産業として根付かせるという同社のビジョンには強く共感しますし、今後の展開から目が離せません。
下請けの町工場から世界を救うメーカーへ
一方、宮城県石巻市のヤグチ電子工業も、目覚ましい変貌を遂げた企業のひとつに数えられます。ソニーの「ウォークマン」などの製造を請け負うOEM(他社ブランドの製品を代わりに製造する事業形態)を本業としていたこの町工場は、スマートフォンやタブレットに接続して放射線量を測定できる「ポケットガイガー」を生み出しました。
開発のきっかけは、東京電力福島第一原子力発電所の事故による深刻な風評被害でした。目に見えない放射線への不安を解消するため、「誰でも線量を確認できるようにすればいい」と佐藤雅俊社長は考えたのです。2011年8月の発売時には、初回生産分の200台がわずか30分で完売するという驚異的な記録を打ち立てました。
佐藤社長の素晴らしい点は、売れ行きが好調であるにもかかわらず、機器の設計図やソースコード(ソフトウェアの動作を記述したプログラムの文字列)を全て公開していることです。「有意義な技術は共有するのが一番」という理念に基づくこのオープンな姿勢に対し、TwitterなどのSNSでは「利益よりも社会への貢献を優先する決断に感動した」と称賛の嵐が巻き起こっています。
現在、このポケットガイガーは海を渡り、インドネシアの鉱山で働く労働者を放射性物質から守るためにも活用されています。被災地の小さな町工場から生まれた技術が、世界中の人々の命と健康を守るために役立てられている現実は、私たちに大きな勇気と希望を与えてくれるでしょう。東北発の防災イノベーションが、これからも世界をより安全な場所にしていくと確信しています。
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