2019年10月18日、中国から衝撃的なニュースが飛び込んできました。発表された2019年7〜9月期の実質経済成長率は6.0%と、四半期統計が開始されて以来の過去最低を更新したのです。2018年後半から囁かれていた経済の停滞は、今や無視できないレベルに達しています。この巨大市場の失速は、海を越えて日本、そして世界全体を不況の渦へ巻き込む火種になりかねないでしょう。
景気悪化の決定打となったのは、泥沼化する米中貿易戦争です。2018年後半から輸出入や企業の設備投資が目に見えて落ち込み、2019年第3四半期までの民間投資の伸びは、ここ3年で最低の4.7%に沈みました。先行きの不安から企業が採用を絞り、雇用市場にも冷たい風が吹いています。生産者物価指数(PPI)は2019年7月から4カ月連続でマイナスを記録し、投資主導の中国経済にとって致命的な「デフレの影」が忍び寄っているのです。
「影の銀行」へのメスが招いた副作用
ただ、不調の原因をアメリカとの対立だけに求めるのは早計です。中国政府が進めてきた「デレバレッジ」という名の借金整理も、景気にブレーキをかけました。これは、銀行の帳簿に乗らない「影の銀行(シャドーバンキング)」を規制し、過剰な債務を削る政策です。不透明な融資が厳しく制限されたことで、これまで経済を回していた資金供給がストップしてしまいました。健全化を急ぐあまり、経済の体力を奪ってしまった側面は否定できません。
さらに、硬直した為替制度が追い打ちをかけます。人民元が安くなりすぎると資金流出を防ぐために政府が介入しますが、これが国内にデフレ圧力を生むというジレンマを抱えてきました。SNSでは「中国の景気対策はもう限界なのでは?」という悲観的な声も上がっていますが、政府は今、これまでの常識を覆す「禁じ手」とも言える新戦略を打ち出し始めています。
禁断の財政ファイナンス?政府の次なる一手
その戦略こそ「財政政策と金融政策の積極的な連携」です。2018年12月の中央経済工作会議で方向性が示され、2019年1月には、中央銀行である人民銀行が国債を買い支えて財政赤字を穴埋めする「財政ファイナンス」の可能性まで示唆されました。これは従来の中国では考えられなかった踏み込んだ姿勢です。さらに2019年3月の全人代では、製造業への減税など2兆元規模の負担軽減策が発表され、なりふり構わぬ景気下支えが鮮明になりました。
この方針転換は、かつてのバラマキ投資とは一線を画しています。減税で消費を刺激しつつ、国債発行で資金を賄うやり方は、先進国で注目される「MMT(現代貨幣理論)」、つまり「自国通貨建ての債務なら財政赤字は問題ない」という考え方にも通じるものです。私自身、この攻めの姿勢には驚きを隠せませんが、一方で、手綱を緩めた隙に地方政府が再び無謀なインフラ投資に走るリスクは、火を見るより明らかだと感じています。
実際、2019年10月には地方債の発行枠が前倒しで拡大されるなど、過熱の兆候は見え始めています。中国の当局者が欧米の理論を学び、巧妙な策を練っているのは確かでしょう。しかし、非効率な投資やバブル再燃という「毒」を抑え込みながら、この劇薬を使いこなせるのでしょうか。世界経済の運命を握る、中国政府の綱渡りの舵取りが、今まさに試されています。
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