ビジネスの最前線で指揮を執るリーダーにとって、逆境を跳ね返す力はどこから生まれるのでしょうか。特種東海製紙の代表取締役社長を務める松田裕司さんは、かつて研究員として苦悩していた若き日に、その答えを見出しました。
物語の始まりは、今から約30年前の1990年にまで遡ります。当時、会社員として紙やパルプの技術研鑽に励んでいた松田さんは、さらなる知見を求めて東京大学大学院の門を叩きました。そこで運命的な出会いを果たしたのが、後に世界的な研究者となる磯貝明先生です。
磯貝先生といえば、植物由来の次世代素材として注目を浴びる「セルロースナノファイバー」の製造技術を確立した第一人者です。米国から帰国したばかりの先生は、世界に類を見ない英語論文の発信を学生に促すなど、学問に対して非常に情熱的で厳しい姿勢を貫いていました。
静岡出身の「お茶好き」が結んだ師弟の絆
厳格な指導者という顔を持つ一方で、磯貝先生には温かな人間味があふれていました。松田さんと先生は、偶然にも静岡県の出身という共通点があったのです。共通の趣味である「お茶」の話題を通じて、二人の距離は一気に縮まっていきました。
7歳の年齢差がある磯貝先生のことを、松田さんはいつしか「頼れる兄貴」のような存在として慕うようになります。しかし、大学院での研究生活は決して平坦な道ではありませんでした。松田さんは、紙が水分を吸収して膨張し、乾燥によって収縮するメカニズムの解明に挑んでいました。
実験が思い通りに進まず、立てた仮説が無残に崩れ去る日々が続きました。費やした膨大な時間が無駄に思え、深い無力感に襲われる松田さんを救ったのは、磯貝先生の意外な言葉でした。先生は「今日の実験もバッチグーだね」と、屈託のない笑顔で声をかけたのです。
失敗を資産に変える!前向きな研究哲学の重要性
「研究に失敗など存在しない」というのが先生の持論です。たとえ期待外れの結果であっても、そこから得られた事実をどう解釈し、次のステップへ繋げるか。この前向きな姿勢こそが、松田さんが無事に博士号を取得するまでの大きな支えとなりました。
2019年現在も二人の交流は続いており、食事を共にしたり、年賀状をやり取りしたりする親密な関係です。先生からの賀状に記された「今年もバッチグーでしょ」という言葉は、経営者として重責を担う松田さんにとって、何よりの励ましになっているに違いありません。
ネット上でも、こうした「懐かしくも温かい師弟関係」には多くの共感が集まっています。「バッチグーという言葉に救われる感覚、よく分かる」「厳しい先生が見せる優しさが最高」といった声がSNSで散見され、世代を超えた絆の尊さが再確認されています。
私自身の見解としても、今の日本社会にはこうした「遊び心のある前向きさ」が不可欠だと感じます。失敗を過度に恐れる風潮がある中で、磯貝先生のような寛容さとユーモアを持った指導者の存在こそが、次世代のイノベーションを育む土壌になるはずです。
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