今、福岡から世界の医療常識を塗り替えようとしている熱い企業をご存じでしょうか。2018年4月2日に産声を上げた九州大学発のスタートアップ「KAICO(カイコ)」は、古くから日本を支えてきた「蚕」を駆使し、驚異的なスピードでワクチンや試薬を生み出す研究を進めています。
代表を務める大和建太氏は、一見すると研究者のような柔和な雰囲気をまとっていますが、その胸には「新薬開発の未来を切り開く」という並々ならぬ情熱を秘めているのです。SNS上でも「蚕が薬を作るなんて驚き」「まさに現代のシルクロードだ」と、その革新的な手法に期待の声が寄せられています。
100年の伝統が結実した「生きた製薬工場」の仕組み
KAICOが誇る技術の核は、蚕の体内で特殊なたんぱく質を生成させることにあります。これは、遺伝子を組み換えたウイルスを蚕に注射し、その生体反応を利用して目的の成分を作らせるという最先端のバイオテクノロジーです。ここで作られる「たんぱく質」とは、生物の体を作る基本物質であり、医薬品の重要な原料となります。
特筆すべきは、その圧倒的な生産効率でしょう。蚕は完全に家畜化されているため管理が容易で、わずかなスペースで大量に飼育できます。驚くべきことに、たった1頭の蚕から豚500頭分に相当するワクチンが製造可能だといいます。この効率性の高さから、同社の蚕はまさに「生きた製薬工場」と呼ぶにふさわしい存在なのです。
この奇跡を支えているのが、九州大学が1911年から積み上げてきた100年以上の研究成果です。大学が保有する450種もの純系種(遺伝的に固定された系統)の中から、ウイルス感染に最適なエリート家系を選び抜くことで、この高効率な生産システムが実現しました。長年の基礎研究が、今まさにビジネスとして花開こうとしています。
文系出身社長が挑む、感染症への迅速なアプローチ
意外なことに、大和社長はもともと文系出身で、蚕には全く興味がなかったと語ります。転機となったのは45歳で入学した九州大学ビジネス・スクールでの出会いでした。日下部宜宏教授の研究に触れ、AIよりも直感的に可能性を感じたことが起業のきっかけだそうです。2019年11月27日現在、同社は年度内の生産ライン構築を目指し、急ピッチで準備を進めています。
蚕を利用する最大のメリットは「スピード」です。ウイルスを注射してからわずか4日で目的のたんぱく質を回収できるため、未知のウイルスが流行した際のワクチン製造期間を劇的に短縮できると期待されています。これは、迅速な対応が求められる現代の公衆衛生において、非常に強力な武器になるはずです。
私は、このKAICOの挑戦こそが、日本の地方大学が持つ「知」を世界へ還元する理想的なモデルケースだと確信しています。現在は2019年ですが、今後5年以内の株式公開を見据える同社の視線は、すでに世界最大の市場である米国へと向いています。温暖化で新たな感染症のリスクが高まる中、福岡発の「蚕パワー」が人類を救う日はすぐそこまで来ているのかもしれません。
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