東日本大震災の爪痕が残る被災地に、エネルギー政策の大きな波が押し寄せています。2019年11月27日、原子力規制委員会は東北電力女川原子力発電所2号機について、新規制基準への適合を示す「審査書案」をまとめました。これは事実上の「合格」を意味しており、再稼働に向けた大きなハードルを越えた形です。SNS上では「電力の安定供給には不可欠だ」という期待の声がある一方で、「震災の記憶が消えない中での再稼働は不安だ」といった切実な意見も飛び交い、議論が再燃しています。
今回、事実上の合格証を手にした女川原発2号機は、出力82万5千キロワットを誇る東北電力の主力電源の一つです。ここで言う「新規制基準」とは、福島第一原発の事故を教訓に、地震や津波への対策を大幅に強化した世界最高水準の厳しい安全基準を指します。この基準を満たしたことは技術的な一歩ですが、本当の課題はここから始まる「地元合意」のプロセスにあると言えるでしょう。東北電力の原田宏哉社長が「一つの大きな節目」と語る通り、現場には安堵と緊張が混在しています。
首長たちの慎重な姿勢と地域経済の複雑な事情
審査書案の公表を受け、宮城県の村井嘉浩知事は2019年11月28日現在、賛否について「現時点では言えない」という慎重な立場を貫いています。これは、避難計画の策定や県民感情を考慮してのことでしょう。同様に女川町の須田善明町長や石巻市の亀山紘市長も、安全対策の徹底や住民への丁寧な説明を求めています。しかし、新潟県のように「事故検証が終わるまで議論しない」と明言する地域に比べれば、宮城県側の姿勢は再稼働を柔軟に検討する余地を残しているようにも見受けられます。
なぜ、立地自治体は慎重ながらも対話の姿勢を崩さないのでしょうか。そこには「地域経済」という切実な現実が存在します。女川町と石巻市は震災で甚大な被害を受け、今も人口減少という課題と戦っています。2018年度の実績では、女川町は原発関連の交付金や固定資産税だけで、一般会計歳入の約11%を賄っている状態です。原発の再稼働は、雇用創出や地域インフラを維持するための「経済のエンジン」としての期待を背負っているという側面は否定できません。
避難計画の実効性と法廷で争われる住民の願い
経済への期待がある一方で、安全性を疑問視する声も根強く残っています。2019年11月12日には、石巻市の住民グループが再稼働に向けた地元同意の差し止めを求める仮処分を仙台地裁に申し立てました。この訴えの争点は、全国で初めてとなる「避難計画の実効性」です。どれほど原発本体を強化しても、万が一の際に住民が安全に逃げられる道が確保されていなければ、それは本当の安全とは呼べません。弁護団は、現状の計画には実効性が欠けていると厳しく指摘しています。
私個人の意見としては、エネルギー自給率の向上や脱炭素の観点から原発の必要性は理解できるものの、被災地の方々が抱く「心理的な壁」を軽視してはならないと感じます。安全基準という「数字」上の合格だけでなく、住民が納得できる「安心」の構築こそが、編集部として最も注目すべきポイントだと考えます。東北電力は2020年度以降の再稼働を目指していますが、今後実施されるパブリックコメントや住民説明会を通じて、どれだけ誠実な対話が積み重ねられるかが試されるでしょう。
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