イタリアの鉄鋼業界に激震が走っています。世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミタルが、イタリアの鉄鋼大手「イルバ」の買収を突如として撤回することを発表し、政府との全面対決の様相を呈しているのです。このニュースが報じられるやいなや、SNS上では「雇用はどうなるのか」「政府の見通しが甘すぎる」といった、将来への不安や現政権への不満を露わにする声が次々と投稿されています。
2019年11月13日現在、イタリア政府とミタル社の溝は深まるばかりです。事の端緒は、2019年6月にイタリア議会が承認した「刑事免責条項」の廃止にありました。免責条項とは、深刻な公害問題を抱えていた製鉄所の再生にあたり、環境対策の過程で発生する法的責任を、企業側が一定期間負わなくて済むという法的保護のことです。ミタル側はこの保証を前提に再建を引き受けた経緯があるため、ハシゴを外された形となりました。
公約と現実の板挟み!追い詰められるコンテ政権
イタリアのコンテ首相は2019年11月6日、ミタル幹部との会談に臨みましたが、説得はあえなく失敗に終わりました。激怒する首相は「買収撤回に正当性はない」と批判していますが、もともとこの免責廃止を主導したのは、環境重視を公約に掲げる与党「五つ星運動」です。政権交代によって一変した方針が、世界の大企業を敵に回す結果となってしまいました。
ミタル社が運営する南部タラントの製鉄所は、約8000人もの従業員を抱える巨大施設です。もしこのまま撤退が現実となれば、失業率が10%に達しているイタリア、特に経済的に厳しい南部地域にとっては壊滅的な打撃となるでしょう。野党のサルビーニ党首が「政府の無能さが招いた事態だ」と攻撃を強めるのも、こうした国民の切実な不安を代弁しているからに他なりません。
編集者の視点から言えば、今回の騒動は単なる約束破りではなく、ミタル社による「巧妙な損切り」の側面も強いと感じます。2019年に入り、世界的な新車販売の失速によって鉄鋼需要は冷え込んでおり、赤字続きのイルバは今や経営の足かせです。政府が免責廃止という「隙」を見せたことで、ミタル側には撤退するための絶好の口実を与えてしまったのではないでしょうか。
現在、ミタル社は高炉の停止準備を進めており、解決の糸口は見えていません。環境を守るという崇高な理想と、市民の生活を守るための経済活動。この二つのバランスをどう取るべきだったのか、イタリア政府の苦悩は続きます。雇用という人質を取られた状態で、コンテ政権がどのような妥協点を見出すのか、今後の動向から目が離せません。
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