2019年11月29日の午後、ロンドンの象徴とも言えるロンドン橋付近で、人々の平穏を切り裂く凄惨なテロ事件が発生しました。刃物を持った男が周囲の人々を次々と襲撃し、男女2名が命を落とし、3名が負傷するという痛ましい事態となったのです。犯人は現場で警察官によって射殺されましたが、その正体が明らかになるにつれ、英国社会には大きな衝撃と憤りが広がっています。
射殺されたのは、英国中部に居住していたウスマン・カーン容疑者(28歳)です。驚くべきことに、彼は過去にロンドン証券取引所を標榜したテロ計画に関与したとして、2012年に禁錮16年の有罪判決を受けた「元受刑者」でした。通常、重大な犯罪を犯した者が社会から隔離されるはずの期間に、なぜ彼は自由な身で街を歩き、再び凶行に及ぶことができたのでしょうか。
実はカーン容疑者は、2018年12月に「仮釈放」という制度を利用して出所していました。仮釈放とは、刑期の満了前に受刑者を釈放し、保護観察下で社会復帰を促す仕組みのことです。彼は電子タグによる監視を条件に、刑期の半分にも満たない期間で自由を得ていたのです。この事実に対し、SNSでは「制度の欠陥ではないか」「安全軽視だ」といった厳しい批判が相次いでいます。
総選挙の火種に!揺れる英国のテロ対策と量刑制度
2019年11月30日、事件現場を視察したジョンソン英首相は、現行の量刑制度を強く批判しました。首相は「危険な受刑者を早期に釈放するシステムは、もはや機能していない」と断言し、罰則の厳格化を訴えています。この発言は、2019年12月12日に控えた総選挙において、有権者の支持を左右する極めて重要な論点となることは間違いありません。
一方で、野党・労働党のコービン党首は、釈放後の保護観察体制が不十分であった可能性を指摘しています。背景には、2008年の労働党政権下で導入された制度が、後の保守党政権下で廃止されたものの、カーン容疑者には旧法が適用されていたという複雑な法改正の経緯があります。与野党間では、誰がこの「制度の穴」を作ったのかを巡り、激しい責任の擦り付け合いが始まっています。
筆者の視点としては、更生プログラムの重要性は否定しませんが、公共の安全を脅かすテロリストに対して、画一的な早期釈放を適用することのリスクを重く受け止めるべきだと考えます。過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出す中、再犯を防げなかった現行体制の抜本的な見直しは不可欠です。英国の選択が、世界のテロ対策にどのような一石を投じるのか注視すべきでしょう。
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