プーチンの行動を読み解いたロシア研究の権威、木村汎氏が遺した「北方領土」とナショナル・プライド

ロシア研究の第一人者として知られ、北海道大学の名誉教授も務められた木村汎(きむら・ひろし)氏が、2019年11月14日に83歳でこの世を去りました。木村氏は、旧ソ連時代から現在のロシアに至るまで、その内政や外交の在り方を常に厳しい視点で見つめ続けてきた孤高の学者です。単なる学術的な分析にとどまらず、対象をあえて突き放すような冷徹なまでの観察眼は、多くの人々から深い信頼を寄せられていました。

特にその洞察力の鋭さが世界を驚かせたのは、2014年に起きたウクライナ領クリミア半島の強制編入という歴史的事件の際でしょう。国際社会が混乱し、編入までは至らないという楽観的な見方が大勢を占める中、木村氏はプーチン大統領の行動様式を的確に予測しました。軍事的圧力によって他国の領土を奪うという行為が、冷戦後の国際秩序を根底から揺るがすと警告し、即座に編入が行われる可能性が高いと断言したのです。

SNS上では、木村氏の訃報に際して「氏の分析はいつも冷静で、感情に流されない強さがあった」「プーチン氏の本質を誰よりも理解していたのではないか」といった、その先見性を惜しむ声が数多く寄せられています。木村氏の執筆に対する情熱は凄まじく、実の姉である推理作家の故・山村美紗氏からの影響もあったのかもしれません。寸暇を惜しんでペンを走らせ、多くの読者に届く言葉を紡ぐことに、並々ならぬ誇りを持っていました。

スポンサーリンク

北方領土返還に捧げた「ナショナル・プライド」という信念

木村氏が生涯を通じて情熱を注ぎ続けたもう一つの大きなテーマが、北方領土問題です。北方領土とは、北海道の北東に位置する択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島の四島を指し、現在もロシアによる実効支配が続いています。木村氏はこの問題において、安易な妥協を許す楽観論を真っ向から排してきました。一貫して四島返還の原則を堅持すべきだと訴え、日本の外交が守るべき一線を理論的に支え続けてきたのです。

かつて北欧で開催された国際会議の場で、なぜこれほどまでに北方領土問題に関わり続けるのかと問われた際、木村氏は迷わず「ナショナル・プライド(国家としての誇り)だ」と答えたといいます。この言葉には、領土問題が単なる土地の奪い合いではなく、国の尊厳そのものであるという強い信念が込められていました。この一言は、同席していた多くの研究者たちの心にも、深く刻まれることになったのでしょう。

指導者論として名高い「プーチン」三部作をはじめ、木村氏が世に送り出した大作の数々は、これからの日露関係を考える上で欠かせない指針となるはずです。冷戦後の秩序が激動する今、木村氏のような揺るぎない視点を持つことの重要性を、私たちは改めて痛感せずにはいられません。国家の誇りを胸に、最後までペンを握り続けたその姿は、後進の研究者や私たち日本国民に、重い問いを投げかけているようです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました