2019年の世界経済において、香港が再びその圧倒的な存在感を見せつけました。新規株式公開、いわゆるIPOによる資金調達額のランキングで、香港取引所が世界トップの座を維持する見通しとなったのです。大手会計事務所KPMGの調査によれば、調達額は372億ドル、日本円にして約4兆円という、実に9年ぶりの高水準を記録しました。
今年の香港は、決して平坦な道のりではありませんでした。反政府デモの激化により、夏場には上場を見合わせる企業が相次ぎ、一時は金融センターとしての機能に疑問符が打たれたほどです。しかし、9月を境に市場の空気は一変します。SNSでは「香港の底力を見た」という声と「政治不安は消えていない」という複雑な反応が入り混じっています。
巨大テック企業アリババの「凱旋」がもたらした逆転劇
この劇的な巻き返しの主役は、中国の電子商取引最大手であるアリババ集団です。同社は2019年11月に香港へ重複上場を果たし、1社だけで全体の3分の1に相当する129億ドルを調達しました。もしアリババの上場がなければ、香港は首位の座を米国のナスダックやニューヨーク証券取引所に明け渡していた可能性が極めて高いでしょう。
ここで注目すべきは、香港が推し進めてきた「種類株」の解禁というルール変更です。これは創業者が少ない持ち株で強い経営権を持てる仕組みで、かつてこの制度がなかったためにニューヨークへ流出したアリババを、再び呼び戻す決め手となりました。専門用語で言えば「議決権構造の多様化」が、テック企業誘致の強力な武器となったのです。
さらに、ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブのアジア子会社も58億ドルを調達し、世界規模の大型案件として市場を牽引しました。一度は延期を発表したものの、最終的に上場にこぎ着けた同社の決断は、投資家心理をポジティブな方向へと一気に傾かせる大きな転換点になったといえるでしょう。
米中摩擦の影と不透明な未来への視座
一方で、2019年12月15日にも商業施設で抗議活動が発生するなど、足元の情勢は依然として緊迫しています。米国で「香港人権・民主主義法」が成立したこともあり、香港は今や米中対立の最前線となってしまいました。この政治的なリスクは、IPOを支える欧米の投資銀行や会計事務所にとって、無視できない懸念材料となっています。
編集者としての視点から言えば、現在の香港は「制度的な強み」と「政治的な脆さ」が同居する特異なフェーズにあります。米中摩擦の影響で、米国市場を避けた中国企業が香港へ回帰する流れは加速するでしょう。しかし、自由な経済活動の基盤である社会の安定が揺らぎ続ければ、長期的な信頼回復は難しいのではないでしょうか。
世界2位のナスダックや3位のニューヨーク証券取引所は、安定した市場環境を背景にハイテク企業の誘致を続けています。これに対し、上海証券取引所も新市場「科創板」を立ち上げ、調達額を前年比で倍増させるなど猛追しています。香港が来年以降も王者の風格を保てるのか、その真価が問われるのはまさにこれからだと考えられます。
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