現代美術の最前線で活躍し、演出家としてもその名を轟かせるやなぎみわ氏にとって、ドイツは自身の芸術性を大きく飛躍させた特別な聖地です。その憧れの地とやなぎ氏を、より強固な絆で結びつけた人物こそが、日本におけるドイツ演劇研究の第一人者である谷川道子氏でした。
二人の運命的な出会いは、やなぎ氏が演劇の世界に足を踏み入れたばかりの2011年にまで遡ります。当時、専門的な知識を求めていたやなぎ氏が、面識のない若輩者ながら意を決して連絡を取った際、谷川氏はその問いかけに対して真っ向から真摯に応じたといいます。
魂の批評と「大魔女」のごとき驚異のバイタリティ
谷川氏による論理的かつ鋭い批評がなければ、現在のやなぎ作品は全く異なる形になっていたでしょう。現在、二人は演劇の議論に留まらず、プライベートな悩みもチャットや電話で語り合うほど親密な関係を築いていますが、特筆すべきはその底知れぬ生命力です。
谷川氏は病を患い、半身に不自由を抱えながらも、杖を手に新しい表現を求めて全国の劇場へ足を運んでいます。かつては骨折をしていながらも客席に現れたという驚愕のエピソードもあり、SNS上では「その情熱こそが本物の芸術愛だ」と感嘆の声が上がっています。
先日、2019年に神戸で開催された野外劇の会場でも、谷川氏は出演者に混じって楽しげに踊る姿を見せてくれました。その溢れんばかりのエネルギーは、まるでドイツ民話に登場する伝説的な「大魔女」を彷彿とさせ、見る者すべてに深い感銘を与えたのです。
次世代へ繋ぐバトンと女性研究者の不屈の精神
谷川氏が歩んできた道は、決して平坦なものではありませんでした。まだ女性の研究者が稀有だった時代から、男性中心の社会で孤軍奮闘し、権利と地位を勝ち取ってきた先駆者としての重みがあります。今の私たちが自由に表現できる土壌は、彼女たちの闘争の上に成り立っています。
ここでの「ドイツ演劇」とは、単なる戯曲の読解ではなく、社会に対する鋭い批評精神や身体表現の実験性を重視するダイナミックな芸術ジャンルを指します。谷川氏はまさにその精神を体現し、学問と生の現場を繋ぐ架け橋としての役割を果たし続けているのです。
師の背中を見つめ続けるやなぎ氏は、自身もまた次世代へ大切なバトンを渡せているだろうかと自問自答を繰り返しています。既存の価値観に挑み続ける彼女たちの姿勢は、2019年12月23日現在、変化を求めるすべての表現者にとって眩い光となっています。
編集者としての私見ですが、師弟関係とは単なる知識の伝達ではなく、生き様そのものの共鳴であると感じます。不自由を恐れず劇場へ向かう谷川氏の姿は、利便性ばかりを追求する現代人が忘れかけている「身体的な感動」の重要性を、改めて私たちに突きつけているようです。
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