総合商社大手の伊藤忠商事が、2020年3月期に純利益で初の業界トップに躍り出る可能性が高まっています。現在掲げている5000億円という通期予想にはさらなる上振れ余地があり、4期連続の増益も現実味を帯びてきました。ネット上でも「ついに三菱商事を抜くか」「非資源の強さが証明された」と大きな盛り上がりを見せています。この躍進の背景には、今春でトップ就任10年目を迎える岡藤正広会長兼最高経営責任者(CEO)の執念とも言える経営手法の浸透があります。
2019年12月17日、伊藤忠の株価は上場来高値となる2567円50銭を記録しました。これは岡藤氏が社長に就任した2010年4月時点の3倍を超える水準であり、時価総額は4兆円の大台を突破しています。かつて首位の三菱商事とは2兆5000億円もの大きな開きがありましたが、その差はわずか6000億円にまで縮小しました。かつて2016年3月期にも首位を獲得した同社ですが、当時は他社の資源巨額損失による「不戦勝」であり、今期こそ実力での真の王者を目指します。
徹底した「非資源」と「一体経営」が生んだ圧倒的な安定感
快進撃を支える第1の強みは、景気に左右されにくい「非資源分野」の圧倒的なシェアです。カジュアルブランド「エドウイン」に代表される生活消費関連などの非資源部門の純利益は4200億円と、10年前の5倍以上に拡大しました。全体の利益に占める割合は約8割に達し、ライバルである三菱商事の約7割、三井物産の約4割を引き離しています。2000年代以降、多くの商社が莫大な利益を生む資源開発に資金を投じるなか、地道に生活密着分野を耕し続けた独自の戦略が実を結んだ形です。
もう1つの武器が、グループ企業を深く巻き込む「一体経営」です。例えば、かつて赤字だったプリマハムに対し、カナダの自社農場から良質な豚肉を供給する体制を構築し、現在は年間82億円を稼ぐ優良企業へ再生させました。さらに、経営陣の刷新にまで踏み込んだスポーツブランド「デサント」の構造改革も、この手法の典型例と言えます。こうした強力なリーダーシップは、過去9年間の業績予想と実績のズレが他社より格段に少ないという、極めて高い収益の安定性をもたらしました。
未来を占う「デジタル商社化」への変革と市場の評価
しかし、真の業界首位として君臨し続けるためには、これからの未来に向けた「デジタル商社」への脱皮が不可欠です。現在の情報・金融部門はシステム管理などの従来型ビジネスが中心であり、驚異的な成長を続ける米国の巨大IT企業「GAFA」のような次世代型ビジネスの構築には至っていません。そこで同社は、流通のデジタル化などを担う「第8カンパニー」を新設し、傘下のファミリーマートが持つ膨大な購買データや、出資する中国中信集団(CITIC)の先進IT技術の活用を急いでいます。
一方で、株式市場からの評価には課題も残されています。企業の将来への期待値を示す指標である「予想PER(株価収益率)」は7.5倍にとどまっており、市場全体や競合の三菱商事よりも低い水準です。PERとは「株価が1株当たりの純利益の何倍か」を表す指標で、数値が低いほど割安ですが、同時に成長期待が低いと見なされている裏返しでもあります。商社=低成長という固定観念を打ち破るには、デジタル投資の具体的な収益化の道筋を市場へ示すことが求められます。
筆者の視点としては、伊藤忠の非資源戦略は日本の少子高齢化社会において非常に打たれ強いビジネスモデルだと評価できます。だからこそ、岡藤会長が経営の集大成として掲げる「デジタル化」という最後のピースがはまるかどうかが、今後の持続的な成長の鍵を握るでしょう。株主への利益還元である配当性向の引き上げなども視野に入れつつ、利益の「額」だけでなく「質」でも名実ともにトップへ君臨する日を楽しみに注目していきたいところです。
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