2020年7月に開幕を控える東京オリンピックまで残り半年となり、世間の期待が最高潮に達する一方で、小売りやサービス業界には巨大な影が忍び寄っています。それは、かつてない規模で発生すると予測される深刻な人材不足の波です。特にパートやアルバイトの労働力に頼り切っている現場では、五輪期間中にスタッフが完全に枯渇してしまうのではないかと、夜も眠れないほどの恐怖が広がっているのが現状でしょう。
SNS上でもこの問題は大きな注目を集めており、「五輪期間中は仕事を休んで生観戦したい」「時給が爆上がりするならイベントスタッフに転職しようかな」といった生々しい声が続出しています。このように、労働者のマインドはすでに五輪モードへとシフトしつつあるのです。利便性の高い単発バイトアプリが普及した現代において、地方の学生たちが「東京で稼ぎながら五輪を見る」という行動に出ることも容易であり、労働力の流出は避けられないでしょう。
採用コンサルティングのプロであるプレシャスパートナーズの高崎誠司社長は、2020年5月や6月の段階からその影響が顕著に現れ始めると警鐘を鳴らしています。家計に余裕がある主婦層やシニア層のほか、夜間の貴重な戦力である外国人労働者までもが、ボランティア活動や自国選手団の応援のために一斉に職場を離脱する可能性が極めて高いからです。
時給1500円への跳ね上がりと定着への一手
では、経営者はこの未曾有の危機にどう立ち向かえばよいのでしょうか。高崎社長が提案する最大の防衛策は、ずばりオリンピック期間中の限定的な「ギグワーク(単発で請け負う働き方)」の活用と、既存スタッフの時給アップです。現在、東京都内における飲食店の平均時給は約1200円ですが、五輪期間中は最低でも1500円程度まで引き上げなければ、急激に高騰する他社の求人に大切な人材を奪われてしまうでしょう。
また、単に給与を上げるだけでなく、スタッフのエンゲージメント(企業や職場に対する愛着心や帰属意識)を育むことも忘れてはなりません。今のうちからモチベーションを高めるためのイベントや研修を組み込み、金銭的な利益を超えた「ここで働き続けたい」と思える強い絆を職場内に構築しておくことが、最大の離職防止策へとつながるはずです。
私は、この危機こそが日本のアナログな労働環境をガラリと変える絶好のチャンスであると考えます。これまでの「人手に頼る経営」から脱却し、業務を細分化して誰でもすぐに働けるシステムを作ることが、五輪後も続く少子高齢化社会を生き抜くための唯一の武器になるに違いありません。
業務の徹底解剖と勇気ある休業という決断
具体的な実務の対策としては、業務分解(仕事を要素ごとに切り分けること)を進めることが推奨されます。例えば飲食店なら、ベテランスタッフには調理などの高度な技術が必要な業務に集中してもらい、皿洗いなどの単純作業はスポットの派遣や無人レジなどの自動化機械に任せるという役割分担です。この仕組みを整えておけば、急な欠員が出ても現場が崩壊することはありません。
採用のスケジュール感としては、2020年2月から3月までに必要な人数を見極め、5月の大型連休明けには夏の本番に向けた最終的な人員確保を終えておくのが理想的な流れです。五輪期間中は大規模な交通規制や激しい道路渋滞が予想されるため、物理的にスタッフが店舗にたどり着けないといった不測の事態まで想定しておく必要があります。
さらに、複数店舗を展開する企業であれば、五輪期間中に莫大な利益が見込める都心の主要店へ人員を集中させ、郊外の店舗は思い切って休業日にするという柔軟な戦略も効果的でしょう。人手不足のまま無理に営業を続ければ、接客の質が落ちて顧客満足度が低下するだけでなく、最悪の場合はサービスの崩壊がSNSで拡散され、大炎上するリスクをはらんでいるからです。
今の時代、「雇ってやっている」という傲慢な態度では、誰一人として集まってはくれません。働く側への寛容性を持ち、温かい職場環境を整えられる企業だけが、この歴史的な夏を笑顔で乗り越えられるでしょう。
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