2019年5月29日付の報道で、東京・六本木のサントリー美術館と気鋭のデザイン集団nendoが仕掛けた、画期的な展覧会**「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」が大きな話題となりました。この企画の最大の特徴は、美術品の鑑賞方法そのものに問いを投げかける、大胆な展示構成です。会場は作品名や解説が一切ない「黒の部屋」と、詳細な作品情報を様々な方法で提示する「白の部屋」**という、対照的な二つの空間に分かれていました。
「黒の部屋」では、来場者は小窓のあいた黒い壁沿いに進み、腰をかがめて小さな開口部から漆芸品などの一部をのぞき見るよう促されます。情報が遮断され、フレーミングされることで、漆の艶や繊細な曲線に集中でき、作品の持つピュアな美しさ、つまり**インスピレーション(右脳的感動)**に没頭できる仕掛けでした。SNS上では当時、「解説なしで見るのは新鮮」「作品のディテールに集中できて良かった」といった、純粋な感動体験を評価する声が多く上がっていました。
一方、「白の部屋」では、作品の制作背景や由来、日本文化の底流にある**「もののあはれ」**といった情感を文字や図解で丁寧に解説します。ここで初めて、先ほど見た漆芸品が江戸時代の「薄蝶螺鈿蒔絵香枕(すすきちょうらでんまきえこうまくら)」であり、香で髪を焚きしめるための枕であるという知識を得て、**インフォメーション(左脳的感動)**が生まれます。茶碗の底だけを見せたり、江戸時代の重箱と現代のプラスチック容器を比べたりといった、工夫を凝らした展示手法が来場者の知的好奇心を刺激しました。
コラムニストとしての私の意見ですが、この展覧会は、情報過多な現代社会における**「美術鑑賞のパラドックス」を見事に突いています。私たちは、作品を前にした瞬間、スマホで解説を検索し、知識を先に入手してから作品を見ようと情報に頼りがちです。しかし、この展覧会は、情報から解放されることで、心が揺さぶられる「ピュアな目」**を持つことの難しさと、その尊さを改めて実感させてくれる、素晴らしい試みだったと言えるでしょう。
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