2019年7月4日の公示を目前に控え、与野党は夏の参議院選挙に向けた熱い論戦を繰り広げています。今回の選挙の焦点の一つは、やはり「憲法改正」の是非でしょう。自由民主党は、この参院選で勝利を収めた場合、選挙後の秋の臨時国会において、憲法をめぐる議論を一気に加速させる方針を鮮明にしています。立憲民主党や国民民主党といった主要野党も、公約で「憲法の議論を進める」ことを掲げたため、与党側は議論が前進する好機と捉えている状況です。
しかしながら、憲法改正の具体的な中身、特に安倍晋三首相が強く推進する憲法9条の改正、すなわち自衛隊の存在を明記する自民党案に対しては、日本維新の会を除く主要野党は明確に反対の立場を取っています。この「9条改正」の是非こそが、今後の国会論戦の最大のヤマ場となることは間違いないでしょう。各党の政策責任者は、公示直前の7月1日に大阪市内で開催された討論会に出席し、それぞれの主張をぶつけ合いました。
各党の主張を徹底分析:賛否が分かれる憲法議論
自民党は、憲法改正を参院選公約の最重要項目の一つに据えています。岸田文雄政調会長は、国民に対して「議論を進めていくことを訴え、国会で議論する姿をしっかりと見てもらう」と強調しました。連立を組む公明党の石田祝稔政調会長も「議論は進めていくべきだ」と同意を示しつつも、「スケジュールありきではない」と慎重な姿勢も見せています。安倍首相は、今回の参院選を「議論をするのか、しないのかを問う」選挙だと位置づけ、国民の判断を求めています。
公約を見てみると、共産党と社会民主党を除く5党は、憲法議論を進めること自体には賛成しています。自民党が「早期の改憲をめざす」と明確に打ち出す一方で、公明党は時代や価値観の変化に応じて新たな規定を付け加える「加憲」の方針を公約に明記いたしました。「加憲」とは、現行憲法を維持しつつ、環境権や新しい人権など、時代に合った条項を追加する考え方のことです。日本維新の会は、教育無償化など3項目の改憲原案を公表しており、「各党に具体的な改正項目の速やかな提案を促し、衆参の憲法審査会をリードする」と、議論を主導する意欲を示しています。憲法審査会とは、憲法改正原案を審査するため、衆議院と参議院にそれぞれ設置される委員会のことで、ここで具体的な改正案が審議されます。
一方の野党では、立憲民主党が首相による衆議院の解散権の制約や国民の「知る権利」の尊重などを挙げ、「国民の権利拡大に寄与する観点から憲法議論を進める」としています。国民民主党も、立憲民主党と同様に解散権の制約や「新しい人権」などについて「国民とともに議論を深める」と掲げています。国民民主党の泉健太政調会長は、討論会で「国民のためによいものであれば改正の可能性は十分ある」と語りました。しかし、共産党と社会民主党は、改憲そのものに反対する姿勢を貫いています。
最大の障壁:憲法9条改正への対立
各党が議論自体は容認する姿勢を見せる中で、最も意見が対立しているのが、首相が強いこだわりを見せる憲法9条の改正です。立憲民主党や国民民主党は、9条に自衛隊を明記するという自民党案に強く反対しています。立憲民主党は公約で「憲法9条の改悪や解釈改憲には明確に反対」と立場を鮮明にしました。「改悪」とは、改正によって憲法が持つ価値や人権保障の精神が後退することへの懸念を示す言葉であり、「解釈改憲」とは、憲法の条文を変更せずに政府の解釈を変更することで、憲法の運用を変えることを指します。国民民主党も「国が自衛権を行使できる限界を曖昧にしたまま自衛隊を明記すべきではない」と、自民党案の問題点を指摘しています。
憲法改正案を国会で発議するためには、衆議院と参議院それぞれで「3分の2以上の賛成」が必要となります。現在の衆議院では自民・公明両党だけでこの議席数をクリアしていますが、参議院では日本維新の会などの勢力を加えても、ぎりぎりの状況が続いています。参院選後、安倍首相は、維新や一部の無所属議員など、改憲論議に前向きな野党勢力との連携を模索するとともに、9条改正に慎重な公明党との協議も進めようとしています。秋の臨時国会で改憲論議を実質的に進める環境を整備できるかどうかは、この「3分の2」の議席確保が何よりも前提となるでしょう。
国民投票法改正案と「秋の攻防」の行方
憲法審査会での論議を阻んでいるもう一つの要因は、「国民投票法改正案」の扱いです。国民投票法とは、憲法改正案が国会で発議された後に、国民による投票を実施するための手続きを定めた法律です。2018年の通常国会から継続審議となっていますが、改正案に盛り込まれていないテレビCMの規制強化を巡り、与野党間で合意が得られておらず、対立が続いています。この問題が決着しない限り、実質的な改憲論議も前に進まないという状況なのです。
国会での論議を進めるには、改憲論議の運営を取り仕切る衆参両院の憲法審査会で、与野党の筆頭幹事を務める自民党と立憲民主党の話し合いが不可欠です。先の通常国会では、国民投票法改正案の採決に立憲民主党が応じず、実質的な改憲論議はできませんでした。憲法改正は、国民の生活や国の在り方を根本から変える可能性を持つ、極めて重要なテーマです。私見ですが、感情論ではなく、各党が掲げる改正項目の具体的な内容や、それによって国民生活がどう変わるのかという明確なビジョンを提示し、建設的な議論を行う責任があるのではないでしょうか。今回の参院選の結果は、この改憲を巡る与野党間の「秋の攻防」を大きく左右することになるでしょう。
SNS上では、憲法改正の話題について賛否両論、様々な意見が飛び交っています。「憲法は変えるべきではない」「自衛隊は明記してきちんと位置づけるべきだ」「まずは景気対策を優先すべきでは?」など、国民の関心の高さが伺えます。憲法は単なる法律ではなく、国の基本原理を定めた最高法規(fundamental law)です。国会で活発な議論が展開され、国民一人ひとりが憲法と向き合い、自らの意思を表明することが、今後の日本の未来にとって非常に重要になってくるでしょう。
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