TSUTAYAやTポイント、そして洗練された空間で新しい読書体験を提供する蔦屋書店。これらを生み出したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の社長兼CEO、増田宗昭さんの発想の源泉は、驚くほど純粋な「家族への愛」にありました。かつて上場を目前に控えた2000年に、個人的な夢を問われた増田さんは「母や妻、姉妹に1億円ずつ贈りたい」と語ったそうです。一見すると矮小な望みに聞こえるかもしれませんが、その根底には金銭的な苦労を重ねてきた最愛の母を、不自由な境遇から解放したいという切実な願いが秘められていました。
増田さんの母はもともと資産家の令嬢でしたが、嫁ぎ先の事情で生活が一変しました。お正月、裕福な親戚からもらったお年玉を、周囲に悟られないよう別の袋に入れ替えて家計に回す母の姿。そんな光景を目の当たりにしてきた少年時代の体験が、彼の中に「お金がないと人を幸せにできない」という強い信念を刻み込んだのです。この「大切な人を自由にしたい」というエゴとも呼べるほど純粋な情熱こそが、後の巨大ビジネスを突き動かす巨大なエンジンとなったのでしょう。SNSでも「成功者の原動力は意外と身近な優しさにある」と共感の声が広がっています。
いじめられっ子から格闘技、そして「利他の心」を知るバンド活動へ
意外なことに、中学時代の増田さんは小柄で、いじめの標的にされることもあったといいます。そんな自分を変えるために選んだ道は、逃げ場のない格闘技の世界でした。高校でレスリング部に入部し、朝から大量の食事を摂りながら己を徹底的に鍛え上げたのです。屈強な肉体を手に入れ、かつてのいじめっ子を圧倒するほどに成長した経験は、彼に「自らの力で運命を切り拓く」という自信を与えました。この時期の不屈の精神が、後の幾多の事業的な失敗を乗り越える粘り強さにつながっているのは間違いありません。
大学時代に没頭したバンド活動も、彼の人生を決定づける重要なピースとなりました。当時の仲間からは、名曲「戦争を知らない子供たち」で知られる杉田二郎さんに才能を見出される者も現れるほど、ハイレベルな環境でした。演奏だけでなく、ポスター制作や集客、当日の司会進行などを仲間と協力して作り上げる喜び。幕が上がる瞬間の高揚感は、何物にも代えがたい快感だったと振り返ります。自分ではない誰かのために汗を流す「利他の心(りたのこころ)」、つまり自分を犠牲にしても他者の利益を優先する精神が、ここで育まれたのです。
「ライフスタイル」を売るという革命!サラリーマンから独立へ
大学卒業後にファッション業界の鈴屋へ入社した増田さんは、早くもその企画力を発揮します。入社2年目にして商業施設の開発責任者を任されるなど順風満帆でしたが、ある時、革新的なアイデアが舞い降ります。当時は高価だったLPレコードに加え、ビデオや本を自由に選べる場所があれば、人々の生活はもっと豊かになるはず。これこそが「ライフスタイル」の提案だと確信し上司に提案しますが、当時の常識では理解されず冷たくあしらわれてしまいます。しかし、この拒絶こそが「増田家再興」を目指す彼を独立へと突き動かす契機となりました。
1983年に創業された蔦屋書店(後のTSUTAYA)は、瞬く間に1300店舗を擁する巨大チェーンへと成長しました。増田さんは常に「お客様が何を求めているか」だけを考え、人々が「ワオ!」と驚くような体験を追求し続けてきました。2000年の株式上場によって、かつて誓った「母を金銭的な制約から自由にする」という約束は見事に果たされます。一つの大きなゴールに到達した彼でしたが、経営者としての次なる闘いは、効率や利益を重視する「投資家の視点」とのギャップを埋めることでした。
固定観念を壊し、世界一の企画会社へ!次なる舞台は中国
2011年、増田さんは自社株を買い戻して上場を廃止するMBO(マネジメント・バイアウト)を決行しました。これは経営陣が自社の株式を買い取り、株主からの短期的な収益圧力を受けずに自由な経営判断を行えるようにする手法です。彼が求めたのは、数字だけでは測れない「直感」を形にする自由でした。代官山や銀座で大成功を収めた蔦屋書店は、まさにその象徴です。既存の「本屋」という概念を打ち壊し、居心地の良い空間そのものを提供する。この型破りな発想こそが、現代人に最も必要とされるサービスだったのです。
現在、増田さんが熱い視線を送っているのは中国市場です。2020年には中国でも「蔦屋書店」が誕生する予定で、10年後の中国がどれほど豊かな社会になるかを見据えています。彼は社員に対し、「既存の常識に囚われたゾンビになるな。脳をリセットしろ」と激を飛ばし続けています。固定観念という枷を外し、人々の心が満たされる空間を世界中に広げていく。増田宗昭さんが描く「母と自由に捧げるバラード」という名の壮大なドラマは、今まさに第2幕へと突入しようとしています。
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