2019年上期(1月から6月)の消費動向を映し出す日経MJヒット商品番付が発表されました。個人消費の伸び悩みが指摘される中でも、人々が「モノ」や「コト」に対して財布の紐を緩める瞬間は存在します。それは、新しい時代の始まりやビッグイベントなど、「この瞬間はぜひとも盛り上がりたい!」という高揚感がトリガーとなっていたと言えるでしょう。この番付には、まさに新しい消費のスタイルを鮮やかに切り取った商品やサービス、イベントが勢揃いしています。
東の横綱に輝いたのは、やはり「令和」という新元号です。先代の天皇の崩御に伴い自粛ムードから始まった平成とは対照的に、令和の幕開けは日本列島全体がお祝いムードに包まれました。改元のタイミングに合わせて結婚式を挙げるカップルが現れたり、人々は家族や恋人、友人と共にこの特別な時を盛大に祝いました。例えば、東京スカイツリーでは、2019年4月30日の営業時間延長に約1,900人が集まり、5月1日午前0時半まで改元の瞬間を祝ったのです。さらに、新元号が記された御朱印を求めて全国の寺社仏閣に多くの人が押し寄せ、ブームを巻き起こしました。
関連する商品も次々に登場し、消費を喚起しました。カルビーからは「令和」が印字されたポテトチップスがローソンで販売され、明治の機能性ヨーグルト「R-1」も、商品名が「令和元年」を想起させることから、改元を祝う限定パッケージ品を投入しました。こうした一連の「令和フィーバー」は、消費者の特別な体験や記念を残したいという心理を見事に捉えたと言えるでしょう。
そして東の大関には、改元を挟んだ「10連休」がランクインしました。この異例の大型連休は、今年のゴールデンウィークに全国各地の宿泊施設や観光地に大きな特需をもたらしました。JR6社の新幹線や特急列車、航空各社の国内線搭乗者数も前年比で10%以上増加し、各地の商業施設も多くの買い物客で賑わいました。内閣府が4月に発表した景気ウォッチャー調査では、家計に関連する現状判断指数が2カ月ぶりにプラスに転じるなど、改元と大型連休による高揚感は確実に消費を刺激したと言えるでしょう。平成の約30年間で消費の軸足が「モノ」から「コト」へと移った流れは、令和の新時代ではSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて、盛り上がりや感動、面白さを共有し、応援できるイベントやサービス、施設にさらに集約されていく傾向が見て取れます。
「ペイペイ祭り」に熱狂!キャッシュレス決済競争がもたらした消費者メリット
一方、西の横綱には「スマホペイ還元」が輝きました。これはヤフーとソフトバンクが出資するペイペイや、楽天などの企業が、スマートフォン決済、いわゆるキャッシュレス決済を利用したユーザーに対して、大規模なポイント還元キャンペーンを相次いで実施した現象を指します。各社が投入した還元額は合計で500億円以上にも上り、まさに「還元祭り」と呼べる状況でした。特にペイペイのキャンペーンは、SNS上で「ペイペイ祭り」として一種のイベントのように大いに盛り上がり、ビックカメラなどの店頭では、還元を受けられるタイミングで商品を買い求める人の行列が発生するほどでした。
このスマホペイ還元は、単なる安売りではなく、最新の決済手段であるキャッシュレス決済の普及に大きく貢献したという点で注目すべきです。消費者としては、普段の買い物で実質的な割引を受けられるというメリットがあり、また、企業間の激しい競争が、ユーザーにとって最も利便性の高いサービスを選ぶきっかけにもなったと言えます。今後は、この波に乗ってキャッシュレス決済がさらに日常に浸透していくことは間違いありません。
共感と熱狂を生む「コト消費」がトレンドを決定づける!
西の大関には、ニンテンドースイッチ向けゲームソフト「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」が選出されました。このゲームは、発売からわずか4カ月で販売本数が1,380万本を突破し、任天堂の据え置き型ゲーム機ソフトとしては過去最速の販売ペースを記録しました。「マリオ」や「ピカチュウ」など、任天堂を代表する人気キャラクターが一堂に会して戦うという、強力なシリーズの新作であることに加え、世界中のプレイヤーと手軽に「イベント感」を共有して遊べる点が、人気の理由となっているでしょう。ゲームもまた、感動や興奮を共有する「コト消費」の典型例と言えます。
また、開催を約1年後に控えた「東京五輪チケット」は東の関脇に登場しました。購入に必要なID登録者数が750万人を超え、2012年のロンドン大会や2016年のリオ大会を上回る注目度の高さを示しています。これは、日本で開催される世界的な祭典に対する国民の期待と、その場に立ち会いたいという強い「高揚感」の表れでしょう。一方で、映画「翔んで埼玉」は西の小結にランクイン。埼玉を過激にディスる(からかう)という自虐的な内容がSNSを中心に大きな話題を呼び、興行収入約37億円という健闘を見せました。これは、映画というエンターテインメントを起点として、話題を共有し、楽しむという「コト消費」の力が発揮された好例と言えます。
価格の柔軟性が消費を動かす「ダイナミックプライシング」
このような「コト消費」の価格設定において、広がりを見せているのが西の関脇「ダイナミックプライシング」です。これは、需要と供給のバランスや競合状況に応じて、サービスの価格を柔軟に変える手法を指します。具体的には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が2019年1月に導入したほか、Jリーグの横浜F・マリノスやプロ野球などでも採用され始めています。需要が高まる時には価格を上げ、需要が低い時には価格を下げることで、消費者の行動を分散させたり、新たな消費を掘り起こしたりする効果が期待されます。消費者としては、ピークを避けることでお得にサービスを利用できる可能性があるため、この仕組みは今後さらに多くの分野で導入されていく可能性が高いでしょう。
私見ですが、今回のヒット商品番付は、単に商品が売れたという事実だけでなく、「体験の共有」と「お得感」という二つの強力なエンジンが、停滞気味の消費を一気に動かし始めたことを示しています。令和の時代は、2019年9月のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、そして2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)と、ビッグイベントが目白押しです。こうした機会を捉え、人々の消費マインドを上向かせる「コト消費」の大きな波が、今後のヒット商品の動向を決定づけることになると予想されます。
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