2019年6月3日、日本経済新聞社が発表した2019年度の設備投資動向調査は、日本企業の投資意欲が依然として旺盛であることを示しました。全産業の計画額は前年度比で9.9%増となり、これで3年連続の増加となる見通しです。この力強い増加の背景には、国内の深刻な人手不足を解消するための自動化投資が「待ったなし」の状況で進められていることが挙げられます。これは、生産性向上と業務効率化を目指す企業努力の表れだと言えるでしょう。
しかしながら、この記事の発表直後、SNSではこの結果に対する警戒感を示す声も多く見受けられました。「米中貿易戦争が激化している今、本当にこの計画通りに進むのか?」「海外投資の減速が気になる」といった、景気の先行きに対する懸念が主な反響です。調査対象は上場企業と資本金1億円以上の有力企業1,064社で、計画総額は29兆7,269億円に上りますが、実は1年前の調査と比較すると、その伸び率は減速していることも事実なのです。具体的には、前年度の当初計画が17年度実績比で16.7%増だったことに対し、今回の9.9%増という数字には、わずかながらもブレーキがかかっている様子がうかがえます。
人手不足の解消と「5G」対応が国内投資のエンジン
大手企業が設備投資の高水準を維持している最大の要因は、やはり人手不足への対応でしょう。例えば、小売大手のイオンでは、岡田元也社長が「デジタル化が全然できておらず、省力化や省人化につながる投資は欠かせない」と述べており、前年度比0.9%増の5,000億円の設備投資を計画しています。これは、レジの自動化やバックヤード業務の効率化など、人が介在する部分を最新技術で置き換える「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の推進を意味します。
また、次世代の通信規格である5Gへの対応も、国内投資を力強く下支えしている状況です。5Gとは、現行の4Gよりも「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」を特徴とする革新的な通信技術のことで、IoTや自動運転の実現に不可欠とされています。設備投資額のトップを走るNTTは、澤田純社長が「NTTドコモの5Gの投資やデータセンターで増額になる」と語るとおり、グループ全体で前年度比3.1%増の1兆7,500億円を計画。KDDIも1.4%増の6,100億円を計画しており、高橋誠社長は「5G向け投資が増え、2020年度以降はさらに増える」との見通しを示しています。こうした巨大な通信インフラへの投資は、日本経済全体を活性化させる大きな追い風になるに違いありません。
けん引役は国内へシフト、景気下振れリスクの懸念
今回の調査で顕著な傾向として、設備投資のけん引役が海外から国内へとシフトしている点が挙げられます。国内と海外の投資額を比較できる644社に絞って見てみると、国内投資が18年度比で6%増となるのに対し、海外投資は2.4%増にとどまる計画です。前年度は国内が9.4%増、海外が11.2%増と海外が上回っていたことを考慮すれば、この海外投資の減速は、世界経済、特に米中貿易摩擦の激化に対する企業の慎重姿勢の現れだと考えられます。
国内投資の中には、2020年に迫る東京オリンピックに向けたインフラ整備や、老朽化した設備の更新といった、差し迫ったニーズに基づくものが多く含まれます。例えば、JR東日本はホームドアの整備などで21.9%増の7,680億円を、王子ホールディングスは国内の設備更新で86.4%増の1,040億円を投じる計画です。こうした投資は景気の変動に左右されにくい「防衛的投資」の色合いが濃く、第一生命経済研究所の星野卓也氏も「大手の国内投資は省力化や老朽設備更新が下支えする」と見ています。
私の意見として、国内投資の増加は心強いものの、その内訳が「必要に迫られた」投資が大半であることは、日本経済の成長の勢いという点で懸念が残ると言わざるを得ません。内閣府が5月20日に発表した2019年1月〜3月期の国内総生産(GDP)速報値で、国内の設備投資が2四半期ぶりにマイナスとなったことや、3月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)でも、大企業の国内設備投資計画が前年度比1.2%増と1年前の調査から減速していることと合わせると、景況感がさらに冷え込めば、多くの企業が投資計画を先送りする可能性は否定できません。
今回の調査は4月30日時点の投資計画に基づき、4月から5月中旬にかけて実施されたものです。この時期は、米トランプ政権が中国への第4弾の制裁関税の詳細を発表したり、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)への米国の輸出禁止措置が本格化したりする直前の状況です。星野氏も「製造業の海外投資は下振れするリスクもある」と指摘しており、米中摩擦によるサプライチェーンの混乱や世界景気の後退懸念が、今後の投資計画にどのような影響を与えるのか、予断を許さない状況が続くと考えるべきでしょう。

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