【2019年6月】原油安と米利下げ観測が加速させる「円高」リスク:投資家が注目すべき中長期的な為替変動要因とは

2019年6月20日現在、外国為替市場において「円高」への見通しが強まっています。その背景には、ここ一カ月ほどで急速に進んだ原油価格の下落と、それに伴う米国の利下げ観測の強まりが深く関わっているのです。原油安は、世界経済、特に米国内の物価に下落圧力(専門用語でいうデフレ圧力)をもたらし、結果として米連邦準備理事会(FRB)の利下げを後押しするとの見方が有力視されています。これは、金利の低下という面からドル売り・円買いを誘う強力な要因となるでしょう。

さらに、日本側にも円高を後押しする特殊な事情が存在します。エネルギー資源の大半を輸入に頼る日本では、原油の価格が下がることによって、その代金を支払うために必要とするドル需要が減少します。つまり、この原油安は、米国の金融政策への影響と、日本の実需(実際の取引に基づく需要)の両面から、中長期的な円高の材料となり得るという二重の意味を持つと市場では見られているのです。

実際の円相場は、4月下旬に1ドル=112円台だった水準から、米中間の貿易摩擦といった地政学的な懸念を背景に、6月初めには一時107円台まで円高が進行しました。その後は一定のレンジで推移しているものの、市場関係者の間では円高を警戒する声が着実に増しています。例えば、米バンクオブアメリカ・メリルリンチが6月に行った世界の機関投資家を対象とした調査では、「今後12カ月間で円が主要通貨の中で最も上昇する」と見込む投資家の比率が、なんと2009年1月以来の高水準を記録しました。SNSなどでもこの調査結果は大きな反響を呼び、「円高への流れは止められないのか」「ポートフォリオを見直すべきか」といった、機関投資家の動向を懸念する声が多く見受けられます。

また、通貨先物市場の投機筋も徐々に円の先高観を強めています。投機筋による円の売り越し幅は、5月上旬と比較して半減し、4万5,000枚まで縮小しました。これは、投機筋が円を売ってドルを買うポジションを解消し、将来の円高に備えている動きを示しており、市場全体の警戒感の高さがうかがえます。投資家の円高警戒感の直接的なきっかけは、ここ数週間のFRB幹部による相次ぐ発言です。彼らは、それまでの利上げ休止というスタンスから、利下げ局面への転換をほのめかしました。これを受け、米長期金利(10年物国債利回り)は、わずか一カ月で2.4%台から2.0%程度まで大幅に低下し、これがドルを売って円を買う動きを加速させた主な材料となったのです。

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原油安が「利下げ長期化」を後押しするメカニズム

金利先物市場では、米国による年内の複数回利下げがある程度は既に織り込まれている状態ですが、ここにきて市場の一部が特に注視し始めたのが、先述した原油価格の動向です。代表的な国際指標である原油先物WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、4月の高値である1バレル66ドルから、一時2割も下落し、6月18日には53ドルを付けました。足元ではやや持ち直しの動きが見られるものの、全体として上値が重い状況が続いています。

原油安は、ガソリン価格の低下などを通じて、米国の物価見通し、つまりインフレ率の予測を押し下げる効果があります。FRBは安定したインフレ率の維持を金融政策の目標の一つとしているため、野村証券の池田雄之輔氏が指摘するように、原油安は「利下げを後押しする効果」を持つことになります。原油価格の低迷が長期化すれば、利下げ局面も長期にわたる可能性が高まり、結果としてドル安・円高の流れを一層強固にするでしょう。私見ですが、この原油安に起因する物価下落圧力は、一時的な貿易摩擦よりも根強く、金融政策の方向性を決定づける上で極めて重要なファクターであると考えています。

また、日本側では、原油の値下がりが輸入決済に必要なドルの需要を弱めるという実需の影響も無視できません。バンクオブアメリカ・メリルリンチの山田修輔氏も、7月〜9月期にドル需要が後退するとの見方を示しており、その要因の一つに原油安を挙げています。過去にも、エネルギーの輸出入が為替に影響を与えた事例があります。特に、東日本大震災後の原発停止に伴う火力発電用のエネルギー輸入増加は、貿易収支を悪化させ、円売り・ドル買いの実需を膨らませたことで、2013年〜2014年の超円高からの円安転換の「大きな要因の一つ」(野田証券・池田氏)となったという見方が根強くあります。原油価格が下落している現在は、当時とは全く逆のメカニズムが働き、円高の方向に作用するという理屈です。

もちろん、米中の貿易摩擦の行方や、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る不確実性など、円相場には予断を許さない波乱要因が数多く残されています。しかしながら、原油といった実需に基づく取引の動向は、幅広い投資家に対して中長期的な影響を及ぼします。外貨建て債券や外国株式を長期的な視野で保有している投資家の方々にとっては、この原油安と利下げ観測は、今後の投資戦略において円高への警戒レベルを一段と引き上げるべき重要な材料となるでしょう。

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