北海道室蘭市が誇る至高のソウルフード「室蘭やきとり」をご存じでしょうか。その名に「やきとり」と冠しながらも、主役は鶏肉ではなくジューシーな豚肉、そして間にはネギではなく甘みの強いタマネギが挟まれているのが最大の特徴です。濃厚なタレを絡め、ピリリと辛い洋辛子を添えて味わうこのスタイルは、一度食べれば誰もが虜になる魔力を持っています。
この伝統の味を牽引するのが、1950年に創業した老舗「やきとりの一平」です。現在、道内で8店舗を展開するこの名店の舵を取るのは、3代目社長の石塚千津さん(50)です。石塚さんは室蘭で生まれ育ち、かつては美容師を志して海を渡りました。イギリスの専門学校を卒業後、東京での勤務を経てカナダ人の男性と結婚し、カナダで12年間にわたり穏やかな生活を送っていたのです。
しかし、運命は2017年に大きな転換期を迎えます。2代目であったお父様が急逝されたことで、石塚さんは急きょ室蘭へと戻ることになりました。後継者が決まっていない中での突然の別れに、「帰国が予定より10年も早まりました」と苦笑いしつつも、その瞳には老舗を守り抜く強い覚悟が宿っています。
伝統を守り、デジタルで広げる「新しい老舗」の形
社長就任から3年目を迎えた2019年11月06日現在、石塚さんは「現場が輝くための裏方」として財務や経営の透明化に心血を注いでいます。事業承継という険しい道のりを経験したからこそ、次の世代へ確実にバトンを繋ぐことが自分の使命だと確信しているのでしょう。この真摯な姿勢には、SNS上でも「地元愛が素晴らしい」「室蘭の宝を守ってほしい」と多くの応援メッセージが寄せられています。
石塚さんの挑戦は、経営改革だけに留まりません。カナダ人のご主人と共に、SNSを駆使した積極的な情報発信や、時代のニーズに合わせた新メニューの開発にも取り組んでいます。さらに自社サイトでの通信販売も開始され、全国どこにいても一平の味を楽しめるようになりました。美容師という異業種で培った感性は、ジャズ喫茶のようなモダンな店づくりにも活かされています。
週末には自ら店頭に立ち、お客様との触れ合いを大切にする石塚さん。私は、こうした「伝統への敬意」と「柔軟な革新」の融合こそが、地方の食文化を存続させる唯一の道だと信じています。単に古いものを残すだけでなく、現代のライフスタイルに寄り添わせる彼女の手腕は、多くの地方企業の希望となるはずです。室蘭の誇りを胸に、彼女の挑戦はこれからも続いていくことでしょう。
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