2019年11月29日、北海道の鈴木直道知事は道議会本会議の場において、カジノを含む統合型リゾート(いわゆるIR)の誘致申請を当面見送る方針を明らかにしました。これまで北海道の経済を根底から押し上げると期待されてきた巨大プロジェクトが、ここで一旦の立ち止まりを見せることになります。SNS上では「自然を守る英断だ」という称賛の声が上がる一方で、期待していた道民からは「千載一遇のチャンスを逃したのではないか」といった不安も渦巻いています。
IRとは、カジノのみならず国際会議場やホテル、ショッピングモールなどが一体となった大規模施設のことを指します。北海道の試算によれば、この開業に伴う投資額は最大で3800億円にも達する見込みでした。多くの人々が、冷え込む地域経済に新たな風を吹き込む「起爆剤」として熱い視線を注いでいたのは事実でしょう。しかし、知事は「挑戦したい思いはあるが、環境への配慮が今の期間内では物理的に不可能である」と、苦渋の表情で説明を尽くしました。
候補地・苫小牧のポテンシャルと直面した高い壁
誘致の最有力候補地として選ばれていたのは、新千歳空港にほど近い苫小牧市でした。広大な土地とアクセスの良さを兼ね備えたこの場所は、世界中の有力な運営事業者からも熱烈なアプローチを受けていたのです。専門家からは、年間売上高が1560億円に上るとの予測も出ており、観光立国を目指す北海道にとって、これ以上ない強力なカードになるはずでした。経済界がこぞって誘致を後押しする決議文を提出した背景には、こうした確かな勝機があったからに他なりません。
しかし、その行く手を阻んだのは、皮肉にも北海道が誇る豊かな自然環境でした。建設予定地には希少な動植物が生息している可能性が高く、法律で定められた「環境影響評価(環境アセスメント)」を完了させるには、少なくとも2年から3年の月日を要します。2021年7月という国への申請期限を逆算すると、もはや一刻の猶予もない状況に追い込まれていたのです。準備不足という現実に直面し、知事は環境保護という大義を優先せざるを得ませんでした。
経済界の失望と将来への微かな光
この決定に対し、北海道経済連合会の真弓明彦会長は「計り知れない痛手である」と深い失望を表明しています。地元の商工会議所からも、政治的な駆け引きに翻弄された結果ではないかという厳しい批判が相次ぎました。私自身の見解としても、環境保護の重要性は理解しつつも、これほど大きな経済的機会を損失することの影響は計り知れないと感じます。一度去った投資家たちの信頼を取り戻すには、並大抵ではない努力が必要になるでしょう。
ただし、鈴木知事は今回の判断を完全な「断念」とは呼んでいません。2019年11月29日の表明文には、将来的な再挑戦を視野に入れた準備を継続する旨が盛り込まれました。国の制度では、最初の認定から7年後に区域数の見直しが行われることになっています。つまり、来るべき「次のチャンス」に向けた助走期間が始まったとも言えるのです。北海道が真に持続可能な成長を手にするためには、今回の挫折を糧にして、より緻密な戦略を練り直す必要があるのではないでしょうか。
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