アパレル業界から聞こえてくるのは、大量閉店やブランド撤退といった暗いニュースばかりです。かつて15兆円を誇った市場規模は、今や10兆円まで縮小しています。そんな逆風が吹き荒れる中、2019年11月22日に新装開店を迎えた渋谷パルコの店内で、一人の若き経営者が熱いげきを飛ばしていました。TOKYO BASE(トウキョウ ベース)を率いる谷正人最高経営責任者、36歳です。
谷氏は2015年に業界最年少で東証マザーズ上場を果たし、2017年には東証1部へと駆け上がった異端児です。2019年2月期の売上高は約140億円ですが、注目すべきはその収益性です。営業利益率は10%を超えており、大手アパレル企業が2%から6%程度に留まる中で、圧倒的な数字を叩き出しています。この成功の裏には、業界の悪習を排除した冷徹なまでの「数字の経営」がありました。
「勘と度胸」との決別!顧客の支持を数字で測る独自の評価基準
アパレル業界には、流行を勘でつかみ、度胸で大量生産し、最後はどんぶり勘定で管理するという古い体質が根強く残っています。しかし谷氏は、こうした「感性頼み」の経営を徹底的に否定します。例えば同社のセレクトショップでは、仕入れた商品が定価で売れた割合を示す「プロパー消化率」を評価の軸に据えています。この数値こそが、顧客からの真の支持を表すバロメーターなのです。
具体的には、定価での販売率が8割を超えれば取引を拡大し、6割を切れば容赦なく仕入れを減らします。担当者がどれほど「このブランドは格好いい」と情熱を注いでも、最終的な審判を下すのは顧客であると言い切る姿勢は、まさにプロフェッショナルです。SNS上でも「これまでのアパレルの曖昧さを変えてくれる」「ビジネスとして信頼できる」といった期待の声が寄せられています。
常識破りの原価率50%と、販売員を「スーパースター」に変える仕組み
一般的なアパレル企業の原価率は20%から30%程度で、その多くは海外生産に頼っています。しかし、TOKYO BASEは原価率50%という驚異的な数字を掲げ、すべての商品を国内で生産しています。原価率とは、販売価格に対する製品の製造コストの割合を指し、これが高いほど高品質な素材や丁寧な縫製が可能になります。セールを前提とせず、定価で売る自信があるからこそ成立する挑戦的な戦略です。
さらに、谷氏は「販売員=低賃金」という業界の常識も塗り替えようとしています。平均年収が350万円前後とされる中で、設定された目標の10%を還元する「スーパースターセールス」制度を導入しました。これにより、年収700万円以上の社員が20人以上誕生し、中には1000万円に達する猛者も現れています。現場の熱量を高めるこの仕組みは、業界の未来を明るく照らしています。
一族の倒産が原点。50歳までの「引き際」を見据えた世界への挑戦
谷氏の経営哲学の原点は、2001年11月に地元・浜松市の名門百貨店「松菱」が自己破産した光景にあります。創業家の一族として、時代の変化に対応できず崩れ去る姿を目の当たりにした経験が、今の彼を突き動かしています。大学卒業後に就職した会社から、わずか3店舗の事業を1億5000万円で買い取った2008年の決断が、起業家としてのスタート地点となりました。
「自分が50歳を過ぎた時、若い感性に追いつくのは難しい」と語る谷氏は、常に引き際を意識しながら、売上高1000億円を目指して海外市場の開拓を急いでいます。私自身の見解としても、感情を排して数字と向き合い、かつクリエイターや現場への還元を最大化する彼のスタイルは、停滞する日本経済において極めて重要なモデルケースになると確信しています。日本発のファッションが世界を席巻する日は、そう遠くないでしょう。
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