現代社会を独自の視点で鮮やかに切り取ってきた劇作家、永井愛さんが新たな物語の舞台に選んだのは、明治・大正という激動の時代を駆け抜けた女性たちです。2019年11月29日から東京芸術劇場で幕を開ける新作『私たちは何も知らない』では、日本初の女性による女性のための文芸誌『青鞜』を創刊したメンバーの情熱的な日々が描かれます。
永井さんは、これまでも樋口一葉や森鴎外といった文豪たちの苦悩を題材にしてきましたが、今回は「女性解放」の旗印を掲げた彼女たちのエネルギーに圧倒されたといいます。あまりに膨大で興味深い資料を読み込むうちに、かつて筆が進まなかった井上ひさしさんの心境が痛いほど理解できたと笑いながら明かしてくれました。
議論の嵐が巻き起こる「談論風発」の精神
本作の中心となるのは、有名な発刊の辞を記した平塚らいてうと、無政府主義者として知られる伊藤野枝という対照的な二人です。禅の修行を積み、静かに内面の覚醒を説くらいてうに対し、野枝は奔放な情熱で周囲を巻き込んでいきました。性格も手法も異なる彼女たちが、なぜ一つの雑誌を作り上げることができたのか、その謎が舞台上で解き明かされます。
当時の『青鞜』では、中絶の是非を問う「堕胎論争」や「売春論争」など、現代にも通じる過激で本質的な議論が絶え間なく交わされていました。これを永井さんは「談論風発(だんろんふうはつ)」、つまり誰に遠慮することなく活発に意見を戦わせることと表現しています。衝突を恐れずに言葉をぶつけ合い、それでも共に歩み続けた彼女たちの絆は、現代人には眩しく映るでしょう。
SNS上では「今の日本にこそ必要な議論の熱量だ」という期待の声や、「青鞜の女性たちが抱いた苦悩は100年経っても解決していないのではないか」という鋭い意見も飛び交っています。資金繰りに苦しみながらも、彼女たちが問い続けた「女性の体は一体誰のものなのか」というテーマは、2019年を生きる私たちにとっても決して他人事ではありません。
永井愛が受け継ぐ明治の女の気迫
永井さんが明治の女性に抱く親近感は、実の祖母の影響も大きいようです。市川房枝の親友でもあった祖母は、まさに「質実剛健(飾り気がなく、心身ともにたくましいこと)」を体現した人物でした。夜中に不法侵入した不審者に対し、ひるむことなく「何者だ、名を名乗れ!」と一喝して追い払ったというエピソードからは、当時の女性が持っていた凄まじい気迫が伝わります。
1980年代から始まった『青鞜』の再評価を経て、永井さんは彼女たちの言葉を血の通った「生きた声」として現代に蘇らせようとしています。歴史上の偉人としてではなく、悩み、戦い、懸命に生きた一人の人間としての彼女たちの姿は、観客の心に深い爪痕を残すに違いありません。自由を求めた先駆者たちの叫びを、ぜひ劇場で体感してください。
私自身、議論を避けて空気を読んでしまいがちな今の世の中に、彼女たちの「本音でぶつかる強さ」は一石を投じるものだと確信しています。言葉に責任を持ち、自分たちの権利を自分たちで守ろうとした明治の女性たちの姿は、今の私たちに「本当の自由とは何か」を力強く問いかけてくるはずです。
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