静岡県の掛川駅から新所原駅までを結び、のどかな原風景の中をひた走る天竜浜名湖鉄道。通称「天浜線」と呼ばれるこの路線で今、劇的な変化が起きているのをご存知でしょうか。その変革の中心にいるのが、2018年に静岡県職員から社長へと転身した長谷川寛彦さんです。
2019年07月27日、天竜二俣駅はかつてない熱気に包まれました。注目の的は、仮想アイドル「音街ウナ」を車体に描いたラッピング列車の出発式です。会場には全国各地から熱心なファンが集結し、中には九州から足を運んだ方の姿も見受けられました。
長谷川社長は2019年04月、日本最大級の文化イベント「ニコニコ超会議」に自ら乗り込み、徹底したプロモーションを展開しました。そこで「推しの列車があるなら必ず乗りに行く」というファンの熱い声を肌で感じ、確信を得たことが今回の成功へと繋がっています。
「ゼロ円広報」に込めた商売人の意地と経営戦略
社長が掲げる戦略の柱は、広告費を極力抑えつつメディア露出を最大化させる「ゼロ円広報」です。2019年09月にはスズキの大型バイク「KATANA」とコラボし、続く11月には地域芸術祭「茶エンナーレ」のPR車両を走らせるなど、そのスピード感は目を見張るものがあります。
こうした独自の経営感覚は、長谷川社長のルーツにあります。実家が自動車販売業を営んでいた彼は、幼少期に資金繰りに苦心する母親の背中を見て育ちました。1円の重みを知る「商売人の血」と、県の財務畑で培った「行政マンの堅実さ」が、見事に融合しているのです。
SNS上では「天浜線が攻めすぎている」「ラッピングのクオリティが高い」といった驚きの声が溢れています。これまで鉄道に興味がなかった層が、SNSでの拡散を通じて実際に現地を訪れるという、新しい人の流れが確実に生まれつつあると言えるでしょう。
沿線人口の減少により、通学・通勤の定期利用が厳しさを増す中、外部からの集客は路線の存続に関わる至上命題です。大河ドラマのブームが落ち着いた後も、2019年度は着実に観光客を増やしており、ラッピング列車は未来を拓く希望の光となっています。
「この会社に骨を埋める」と語る長谷川社長の言葉からは、単なるビジネスを超えた覚悟が伝わります。伝統を守るだけでなく、新しい文化を柔軟に取り入れる姿勢こそが、地域の足を守り、さらには全国へ魅力を発信する鍵になるはずだと私は強く確信しています。
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