中東地域における緊張が急速に高まり、日本経済や多くの企業に大きな影を落としています。イランがイラク国内の米軍駐留基地に対して報復攻撃を敢行したニュースは世界中を駆け巡り、ビジネスの現場にも即座に影響が及びました。SNS上でも「出張予定がすべて白紙になった」「ガソリン代がまた上がるのか」といった悲痛な声が相次いでおり、市民の生活への直撃を懸念する声が溢れています。緊迫化する現地の情勢を受けて、国内の主要企業は社員の安全確保に向けた迅速な防衛策に乗り出しました。
建機大手のコマツや日立建機は、イランやイラクへの渡航を当面の間全面的に禁止する措置を講じています。さらに千代田化工建設は2020年01月08日、カタールやアラブ首長国連邦といった周辺国への出張も禁止に踏み切りました。また三井物産や三菱商事などの大手総合商社も、全社に向けて不要不急の中東出張を控えるよう通達を出しています。このように地政学リスク、つまり特定の地域における政治的・軍事的な緊張がビジネスに不確実性をもたらす脅威に対し、各社はかつてない厳戒態勢で臨んでいるのです。
エネルギー業界の動きも緊迫しています。出光興産の木藤俊一社長は2020年01月08日の賀詞交歓会を急遽中途退席し、情勢分析のための緊急会議へと向かいました。同社は独自の危機管理指標に基づき、サウジアラビアやエジプトなどの危険度を「自粛」へと引き上げています。サウジアラビアに製造拠点を構える東レや、現地で大型石油化学コンビナートを運営する住友化学も、駐在員の国外避難を視野に入れた情報収集を本格化させており、緊迫感は日増しに高まるばかりでしょう。
空路の見直しと旅行への影響
今回の危機は、一般の旅行客や国際的な航空ネットワークにも混乱を招いています。旅行大手のJTBでは、エジプトやトルコといった中東近隣国へのツアーで早くも解約の動きが出始めました。幸いにも全日本空輸や日本航空は中東への直行便や該当空域を通るルートを持たないため、現時点で運航への直接的な支障はありません。しかし、海外の航空会社ではシンガポール航空が欧州路線でイラン上空を迂回するルートへ変更するなど、安全確保のための航路見直しが急速に進んでいます。
地政学的な衝突は、企業の財務基盤を揺るがす深刻な二重苦をもたらす可能性を秘めています。その一つが外国為替市場における急速な円高の進行です。クボタの木股昌俊会長は、対ドルで1円の円高が進むだけで27億円もの利益が吹き飛ぶ試算を示しました。同社は2025年までに農業のデジタル化へ1000億円規模の巨額投資を計画していますが、収益環境が悪化すれば計画の延期を迫られる恐れもあります。安全資産とされる円が買われることで、輸出企業の足元は大きく揺らいでいます。
もう一つの大きな打撃が、エネルギー資源の価格高騰です。すでにガソリンの店頭価格は7カ月ぶりに1リットルあたり150円台を突破しており、さらなる値上がりは避けられない情勢となっています。原油の調達費用が跳ね上がることで、石油元売り各社はガソリンスタンドへの卸値を引き上げる通知を開始しました。燃料費の上昇はあらゆる製品の運送コスト、すなわち物流費の増加に直結するため、国内全般の企業収益を圧迫する強力なブレーキとなってしまうでしょう。
証券会社の試算によれば、原油価格が1バレルあたり10ドル上昇するごとに、日本企業の平均利益は2.3%も押し下げられます。これに円高の進行や投資家のマインド悪化が重なれば、株価を最大で5%から6%ほど下落させる要因になり得ると専門家は警鐘を鳴らします。今回の原油高は、単なるエネルギー問題にとどまらず、日本経済全体の成長の芽を摘みかねない重大な局面を迎えていると認識すべきです。
編集部としては、企業の迅速な人命最優先の対応を高く評価すると同時に、エネルギーの過度な中東依存に対するリスクを改めて痛感しています。日本は資源の多くを海外に頼っているからこそ、地政学リスクに対して脆い構造から脱却できていません。今回の危機を契機として、個別の企業防衛にとどまらず、国家レベルでのエネルギー調達ルートの多様化や、円高に負けない産業構造への転換を強力に進めるべきではないでしょうか。
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