再建への道を歩む東芝は、長年の懸案事項であった米国の液化天然ガス(LNG)事業を、フランスのエネルギー巨大企業であるトタルへ売却すると2019年6月4日に発表いたしました。この事業は、販売価格の変動リスクから、場合によっては最大で数千億円規模の損失が発生する恐れがあるとされてきた、いわば東芝の「負の遺産」でした。わずか2ヶ月前の4月には、中国企業との売却契約が破談になったばかりでしたが、そこからわずか1ヶ月半という異例の早さで新たな買い手を見つけ出し、事業処理を完了させたことは、東芝の再建に向けた強い意志の現れと言えるでしょう。
東芝が抱えていたこのLNG事業とは、米国産シェールガスを液化・加工し、2020年から20年間という長期にわたり、年間220万トンを販売する権利を指します。シェールガスとは、地下深くの硬い岩盤層(シェール層)から採掘される天然ガスのことで、このガスをマイナス162°C以下に冷却して液体にしたものがLNGです。東芝は、この権利をシンガポールに拠点を置くトタルの子会社へ、2020年3月末までに譲渡することになります。譲渡額は1500万ドル(当時のレートで約17億円)ですが、東芝はこれに伴う一時金費用を支払い、2020年3月期には連結決算で930億円の損失を計上する見通しです。この損失額は、破談となった前回の中国企業との契約時と同額を踏襲しているため、前回の売却契約が相場として機能した側面もあるようです。
特に注目すべきは、今回のスピード決着を後押しした、欧米を巻き込む複雑なエネルギー事情でしょう。LNG取引において世界的な市場拡大を目指す欧米両国の思惑が、東芝の事業処理にとって追い風となりました。まず、ヨーロッパ諸国は、ウクライナ情勢などで対立するロシアへのエネルギー依存度が高く、特にロシアからバルト海経由でドイツに繋がる天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」が2019年末にも完成予定でした。ロシアへの過度な依存は安全保障上のリスクとなるため、欧州勢はLNGの調達先を多様化する必要に迫られていたのです。
一方で、アメリカのトランプ政権もまた、ヨーロッパへのLNG輸出拡大に強い意欲を示しています。米中貿易摩擦の影響で中国向けのガス輸出が難しくなる中、欧州市場は米国のガス輸出にとって非常に重要な出口となっていました。さらに、米国はロシアへの依存を警戒し、「ノルドストリーム2」計画に関わる企業への制裁方針まで明らかにしています。調達先を増やしたい欧州勢と、欧州への輸出を増やしたい米国政権の利害が一致した結果、東芝は米国のLNG権益を求める国際的な需要に恵まれ、迅速にリスク資産を処理できたと言えるでしょう。
トタルがこの東芝のLNG事業を取得した背景には、同社が世界のLNG市場で約1割のシェアを占めるほどに、この分野を強化していることが挙げられます。また、イギリス・オランダのロイヤル・ダッチ・シェルといった同業他社も、すでにLNGや再生可能エネルギー事業での利益が、従来の石油精製事業などを上回り始めており、各社は石油に比べて温暖化ガスの排出が少ないLNG事業への投資を加速させている状況です。私が編集者として思うのは、今回の売却は東芝にとって最優先事項であった「リスクの排除」を果たすことができた点で、大きな成功と評価できるということです。売却額や損失計上額について、欧米の事情を交渉に活かして東芝に有利にできた可能性も否定できませんが、米原子炉大手ウエスチングハウスの巨額損失で傾いた経営を立て直すには、新たな損失を生み出しかねない高リスク事業の切り離しが何よりも重要だったはずです。
🚢半導体なき後の再建を急ぐ東芝の新体制
東芝は2019年4月に、再建に向けた新たな中期経営計画をスタートさせたばかりです。さらに、6月末には経営体制を刷新し、取締役12人のうち8割を社外取締役で固めるという、極めて異例のガバナンス強化を断行します。特に、この中には資産運用などの経験が豊富な外国人の取締役4名も含まれており、透明性の高い経営を目指す意図が明確です。かつて東芝の経営を支えた半導体メモリー事業を存続のために売却した後、東芝はいまだに明確な新たな「稼ぎ頭」を見つけ出せていません。今回のLNG事業の処理は、この高リスクな負債と決別し、新体制で新たな成長分野の創出へ注力するための、重要な第一歩となるでしょう。SNSでも、この「スピード決着」について「東芝がようやく本気で再建に舵を切った」という期待の声や、「欧米の事情を利用するしたたかさが感じられる」といった分析が多く見受けられます。今後の新体制による具体的な収益基盤の構築に、大きな注目が集まるでしょう。

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