イスラエルの大手資源企業デレク・グループが、2019年に入り、海外での石油・ガス開発事業に猛烈な勢いで攻勢をかけています。これまで東地中海の自国沖合のガス田開発を中心としてきたデレクにとって、この動きは大きな転換点です。国内でのエネルギー需要が拡大している一方で、「タマル」や年内の生産開始が見込まれる「リバイアサン」といった巨大ガス田の産出ガスがほぼ国内消費に回るため、収益を飛躍的に伸ばすには、どうしても海外での油田やガス田の権益を増やさざるを得ない、という判断が背景にあると言えるでしょう。
特に注目すべきは、2019年5月末に発表された、米国の巨大エネルギー企業シェブロンからの北海油田権益の取得合意です。買収額はなんと約20億ドル(当時の為替で約2,170億円)という巨額に上ります。北海で資源開発を行うデレクの子会社イサカ・エナジーがこの権益を取得することで、イサカが持つ北海における石油換算の生産量は、専門誌の予測によれば現在の約4倍にまで増加する見込みです。この取引には、オフショア(沖合)の開発現場で働く200名を含む、500名の従業員がイサカに移籍するという人的な規模の大きさも伴っており、デレクの海外事業への本気度が伺えます。
さらに、この北海の動きに先立つこと2019年4月には、英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェルからも、米国メキシコ湾の深海に位置する**「シーザートンガ油田」の権益約22%を、約9億7千万ドルで取得することに合意しています。この油田はニューオーリンズの南西約300km沖合にあり、大規模な深海油田の一つとしてデレクは大きな期待を寄せています。デレクが持つ権益分だけで約7,800万バレルの埋蔵量が見込まれており、30年以上の生産継続が可能だと予測されています。これらの大型買収は、デレクが単なる「イスラエルの資源会社」から、「世界的な資源開発会社」**へと変貌を遂げるための重要な戦略を加速させている証でしょう。
天然ガス輸送パイプラインの買収とエジプトへの輸出計画
資源開発だけでなく、天然ガスの輸送インフラの強化にもデレクは力を入れています。2018年9月には、デレクなどはエジプト政府系の企業が保有する、イスラエルとエジプトを結ぶパイプラインの権益約40%を、5億ドル強で取得することで合意しました。このパイプラインは過去にエジプト産のガスをイスラエルへ送るために利用されていましたが、現在は稼働が停止しています。しかし、今後はデレクなどが地中海沖で生産したイスラエル産ガスをエジプトに輸出するために使用される計画なのです。
パイプラインはすでに試験運転が行われており、2019年6月末には本格的な稼働が見込まれています。イスラエルはエジプトとの間で、総額150億ドル分にもなるガスの輸出契約を締結しており、これは両国間の経済協力において歴史的な一歩と言えるでしょう。エジプトでは、2011年の「アラブの春」以降の混乱が収束し、シシ政権下で内政が安定化しており、年間5%程度の高い経済成長を続けています。さらに、人口の急増に伴ってエネルギー需要も拡大しているため、イスラエル産ガスはエジプト国内の消費を支える重要な役割を担うことになります。
さらに将来的な構想としては、エジプトが有する液化天然ガス(LNG)施設を利用し、液化した天然ガスを欧州へ輸出することも視野に入れています。天然ガスを液化してタンカーで輸送可能にするLNG化は、パイプラインが届かない遠方の市場へガスを供給するための重要なプロセスです。中東の地政学的・経済的要衝であるエジプトを経由して、エネルギー市場の競争が激しい欧州にまで販路を拡大しようというデレクの戦略は、非常に野心的であり、この動きは地域全体のエネルギー情勢に大きな影響を与えるでしょう。
「脱・東地中海偏重」を掲げたグローバル展開
デレクはこれまで、東地中海にある「リバイアサン」や「タマル」といった大規模な海洋ガス田の開発に事業が集中しており、全体の事業の60%強をこの地域に依存していました。このような事業地域の偏りが著しい状況からの脱却と、さらなる成長の実現を目指すことが、デレクの目下の大きな目標です。その具体的な一手として、デレクは2017年に北海のガス開発を専門とするイサカ社を完全子会社化し、グローバル展開の足がかりを築いたのです。カナダでの石油ガス開発プロジェクトにも参画していますが、そちらは全体の10%強にとどまっており、北海とメキシコ湾が今後の成長の鍵を握ることになるでしょう。
今回のシェブロンとの買収合意を受け、デレクのアサフ・バートフェルド最高経営責任者(CEO)は、イスラエル紙に対し「今回の買収は、世界クラスの資源開発会社となる戦略にとって重要な役割を担う。事業戦略を加速させ、石油ガス事業を強化する」と強く表明しました。これは、創立が1951年で、当初は石油製品の販売からスタートし、後に資源開発へと事業を拡大してきたデレクが、新たな創業期を迎えたことを示唆していると言えるでしょう。2018年度の売上高が81億シェケル(約2,420億円)と前年比19%増を記録するなど、すでに好調なデレクですが、この海外展開によってその成長はさらに加速する可能性が高いと私は考えます。
この一連の動きは、国内の天然ガス需要が堅調に伸びているイスラエルという「近場採掘」の限界を超え、より大きな収益と事業安定化を求めて世界市場へと踏み出した、**「イスラエル発グローバル資源企業」**の誕生を告げるものに他なりません。SNS上でも、「イスラエルの企業がここまでやるとは驚きだ」「国の内需を支えつつ外貨を稼ぐ模範的な戦略」といった、デレクの積極果敢な経営戦略を評価する声が多く見受けられます。今後のデレクが、世界的なエネルギー企業としてどのように存在感を高めていくのか、その動向から目が離せません。
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